泡瀬干潟の埋め立て再開決定に対する抗議声明
ラムサール・ネットワーク日本では、東門美津子沖縄市長が提出した泡瀬干潟の新たな埋立計画を、2010年8月3日に前原誠司沖縄担当大臣が承認し、埋め立ての再開を決定したことについて、下記の抗議声明を8月12日に発表しました。
この埋め立て再開決定に対しては、WWFジャパン、日本自然保護協会も声明を発表しています。
2010年8月12日
泡瀬干潟の埋立再開決定に強く抗議し、決定の撤回を求める
NPO法人 ラムサール・ネットワーク日本
共同代表
花輪伸一・柏木実・呉地正行・堀良一
泡瀬干潟が、再び、埋立の危機に瀕している。
8月3日に、前原誠司沖縄担当大臣は、東門美津子沖縄市長が提出した新たな埋立計画を承認し、埋立の再開を決定した。しかし、この新たな埋立計画「東部海浜開発事業(スポーツコンベンション拠点の形成)」は、わずか10ページで内容の乏しいものである。また、東門市長は、議会や会派、市民や環境団体、専門家との協議を行っておらず、かつては一期中断、二期中止と発言した前原大臣からの詳しい説明もなく、大臣、市長ともに説明責任を放棄している。これでは、民主的手続きを踏まえたものではないし、昨年の福岡高裁で確定した判決をないがしろにするものである。
したがって、私たちは、東門市長、前原大臣による突然の泡瀬干潟の埋立再開決定に対して、強く抗議するとともに、決定の撤回を求める。
今回の決定の問題点
1.情報公開、住民参加、合意形成の無視
今回の決定には、情報公開、住民参加、合意形成の一連の民主的手続きが欠落している。報道によれば、前原大臣は、新たな計画について沖縄市や有識者と協議してきたと述べている。したがって、東門市長が計画を公開した7月30日には、すでに大臣側と市長側の折り合いがついており、8月3日の大臣の承認と決定へと準備がなされていたことになる。しかし、その過程はまったく知らされず、まさに密室での協議であり、市民や環境団体、関係者を無視した、きわめて乱暴な手法といわざるを得ない。
前原大臣は、このような非民主的な手法をとったことを真摯に反省し、埋立の決定を撤回するべきである。また、沖縄市や有識者とのやりとりを公開し、新たな埋立計画に関する今後の議論に役立てるべきである。さらに、大臣は、民主党政策集index2009において環境負荷の大きい公共事業の見直しや中止を主張していることやマニフェストの「コンクリートから人へ」という言葉を思い起こすべきである。
東門市長は、新たな埋立計画について、市議会各会派に説明したものの協議はせず、また、市民や環境団体、専門家等への説明と意見聴取は、まったく行わないままに、大臣の承認を取り付けている。市長は市長選の際に、地元の四政党と「経済的合理性がないときは推進しない」という協定を結んでいる。沖縄市民の多くは、その協定を信じて東門市長に投票したのであり、経済的合理性について、四政党や市民、環境団体と何の協議もしないままに、大臣の承認を取り付けることは、選挙民への裏切り行為と言わざるを得ない。東門市長は、埋立計画の大臣への提出を撤回し、四政党や市民、環境団体,専門家等との協議を行うべきである。
泡瀬干潟の埋立事業に関しては、那覇地裁、福岡高裁那覇支部が、経済的合理性がないことを理由に公金支出差し止めを命じた判決が確定している。判決では「新たな土地利用計画に経済的合理性があるか否かについては、従前の土地利用計画に対して加えられた批判を踏まえて、相当程度に手堅い検証を必要とする」とも指摘している。それから1年もたたないうちに、「スポーツコンベンション拠点の形成」と看板を書き換え、内容が不十分なままに新たな埋立計画を取り繕い、情報公開、住民参加、合意形成をないがしろにして、埋立再開を決定してしまうことは、あまりに拙速である。これでは、さらに政治不信が高まるばかりである。
2.新たな埋立計画の杜撰さ
2-1. 自然環境は保全されない
この新たな埋立計画「東部海浜開発事業(スポーツコンベンション拠点の形成)」は、わずか10ページに過ぎない。環境に関する記述も3分の1ページだけである。計画では、二期工事を中止した結果、干潟の約98パーセントが残ることから、干潟が保全されるとしている。しかし、一期工事の堤防で囲われた浅海域(海草やサンゴの生育場所)は、残される干潟と連続した切り離せない自然環境である。すでに、一期工事により砂の流動が変化し、砂洲の形状や海草藻場に砂が堆積するなどの変化が生じているのである。
浅海域の埋立により人工島が形成されると、残された干潟部分でも、次第に環境悪化が進むことは、中城湾港新港地区の人工島造成の例からも明らかである。人工島の出現によって砂泥の流動がどのように変化し、干潟部分にどんな影響が出るのか、この重要な問題は過去の環境アセスメントでも触れられていない。埋め立てられたところにのみ影響があり、埋め立てられなかったところには干潟、海草やサンゴ類がそのまま残るということはない。前原大臣が、二期工事を中止したことで環境が良好な状態で残ると考えているならば、それは大きな間違いである。
一方、新たな埋立計画では、人工島周辺部での植樹、野鳥園、生物聖域ゾーンの造成などが環境への配慮として羅列されているが、無内容である。また、これまで失敗してきた海草やサンゴの移植には触れられていない。
2-2. 需要と供給の予測は過大である
新たな埋立計画では、沖縄県への観光入域客数を2018年に850万人と予測し、泡瀬地区を訪れる327万人にサービスを供給する想定になっている。しかし、2009年の沖縄県への観光入域者数は565万人であり、前年より40万人減少していることから、8年後に327万人が泡瀬地区を訪れると想定することは明らかに過大であろう。なお、2009年の石垣・西表地域への観光入客数は約73万人である。
観光客数を過大に見積もる一方で、新たな計画では、スポーツ主体の計画であり県民利用を選択するとの記述がある。これは矛盾していると思われるが、県民利用主体としても、泡瀬には、すでに沖縄県総合運動公園があり、コザ運動公園や隣接する市もそれぞれスポーツ施設を整備しており、これらは連動するどころか競合すると思われる。
ホテル等の施設の供給についても、計画に示された数値から1日当たりの供給数に換算すると、宿泊は1日当たり247人、商業施設は5,403人、多目的広場が1,444人、健康医療施設が822人など、合計で1日当たり8,959人に供給が可能と計算される。これも過大であると思われる。
2-3. 経済的合理性が疑われる
36社の企業に対してヒアリングが行われたが、「進出意向」はわずか2社にすぎないという結果である。これをもって「企業進出の可能性は十分に存するものと考える」というのは希望的観測に過ぎない。民間事業部門は未知数というのが実情ではないか。むしろ過去の事例を見ると、沖縄市内では、コリンザ、パークアベニュー、ミュージックタウンなど、当初の予測とはまったく異なり、失敗と言っていい例や構想とは違ってしまった例に事欠かない。一方で、商業施設では、泡瀬地区に隣接するうるま市に大規模商業施設があり、先頃返還された泡瀬ゴルフ場跡にも複合型商業交流施設の計画があることから、スポーツコンベンション拠点としては尚更、商業施設やホテルの進出は期待はずれになる可能性を否定できない。なお、沖縄県内でも、中城湾港新港地区、与那原町マリンタウン東浜、糸満市西崎、宮古トウリーバー計画、石垣港埋立地など、経済的合理性の視点で検証すべき地域開発は少なくないのである。
公共事業部門は、全て計画通りに進んだとしても、施設管理等のために年間1億8千万円の赤字になるとされる。また、事業期間全体での沖縄市の収支は67億円の赤字になるという。果たして、この程度の赤字でおさまるのか、先に埋立事業ありきの計画からは、疑問が生じるばかりである。企業進出数や利用者数、土地購入と企業への売却、その収支、売却失敗のリスク、沖縄市の財政負担などについて、この新たな埋立計画は多くの問題を含み、第三者の専門家による検証が不可欠であり、それがなければ、経済的合理性があるとの判定は困難である。
3.辺野古新基地建設(米軍普天間飛行場移設)との関連疑惑
現政権は、米軍普天間飛行場の移設に関して、沖縄県民の同意を求めずに米国と協議し、一旦は中止したはずの辺野古への新基地建設を再決定した。今回、突然に泡瀬干潟埋立の再決定を行ったことの裏には、辺野古への新基地建設の見返りとして、大規模公共事業再開を認めたという意味があるのではないか、という疑問を消すことができない。
沖縄県に多くの米軍基地を押しつける見返りとして、振興資金の配分や公共事業の実施が長年にわたって行われてきた。その結果、県内の米軍基地が固定化され、新たな基地建設や公共事業を巡って、地域が賛成、反対に分断され、共同体が崩壊する悲劇が繰り返されてきた。同時に、豊かな自然が破壊され生物多様性の劣化が進んでいる。沖縄に対するこのような政策は、一刻も早く、環境・人権・平和を基調とする政策に転換するべきである。
以上のことから、突然の泡瀬干潟埋立の再開決定に対して強く抗議し、以下のことを要求する。
- 前原沖縄担当大臣と東門沖縄市長は、今回の埋立決定を撤回すること。
- 東門沖縄市長は、新たな泡瀬干潟埋立計画である「東部海浜開発事業(スポーツコンベンション拠点の形成)」に関し、情報を公開し、市議会各会派、市民、環境団体、利害関係者等と協議し、議論をつくし、合意形成を図ること。また、この計画に関して、経済および環境、合意形成手法にかかわる第三者の専門家の検証を受けること。
- 前原沖縄担当大臣は、これまでの沖縄市との協議、有識者のヒアリングについて、その内容を明らかにし、経緯を説明すること。また、来年度予算に、泡瀬干潟の埋立事業費を計上しないこと。
以上
この声明に賛同する団体・個人
●団体
(財)日本自然保護協会、泡瀬干潟を守る東京連絡会、沖縄リーフチェック研究会(会長 安部真理子)、沖縄・生物多様性市民ネットワーク(事務局 長吉川秀樹)、琉球列島を世界遺産にする連絡会(共同代表 伊波義安)、泡瀬干潟大好きクラブ(代表 水野隆夫)、日本科学者会議沖縄支部(支部代表幹事 武居洋・新垣進・加藤祐三)、一坪反戦地主会浦添ブロック(代表 黒島善市)、沖縄満月まつり実行委員会(共同代表 東恩納琢磨・まよなかしんや)、「高江ヘリパッドいらない」住民の会、バイオダイバーシティ・インフォメーション・ボックス(代表 原野スキマサ)、愛知県とトヨタ自動車による21世紀最大の自然破壊を阻止する会(代表 関口修)、諫早干潟緊急救済本部(代表 山下八千代)、水源開発問題全国連絡会(共同代表 嶋津暉之・遠藤保男)、千葉の干潟を守る会(代表 大浜 清)、日本クロツラヘラサギネットワーク(代表 土谷光憲)、NPO法人ふくおか湿地保全研究会(代表 服部卓朗)、あーす☆ガイド山口、あーす☆ガイド北海道、自然の種、仏教徒非戦の会・福岡(代表 郡島恒昭)、NPO法人藤前干潟を守る会(代表 辻淳夫/亀井浩次代行)、導水路はいらない!愛知の会(共同代表 加藤伸久、小林収)、みん宿ヤポネシア、徳山ダム建設中止を求める会(代表 上田武夫)、平和・人権・環境を守る岐阜県市民の声、蒲生を守る会、長良川市民学習会(代表 粕谷志郎)、環境会議・諏訪(会長 塩原俊)、ウエットランドフォーラム(代表 松本悟)、長良川河口堰建設に反対する会(事務局長 天野礼子)、許すな!憲法改悪・市民連絡会(高田健)、海上の森野鳥の会、設楽ダムの建設中止!名古屋の会、NPO法人表浜ネットワーク(代表 田中雄二)
●個人
桑江直哉(沖縄環境ネットワーク・泡瀬干潟を守る連絡会)、亀山統一(大学教員・森林保護学)、羽生洋三(有明海漁民・市民ネットワーク)、長田英己 (潟の生態史研究会)、浦島悦子(琉球諸島を世界自然遺産にする連絡会/沖縄・生物多様性市民ネットワーク)、牧志治(沖縄リーフチェック研究会)、まよなかしんや(フォークシンガー)、名和純(貝の渚を歩く会)、平良悦美(辺野古)、松元裕之(泡瀬干潟を守る東京連絡会)、宮本育昌 (コーラル・ネットワーク)、村瀬俊幸(CBD市民ネット事務局、中部ESD拠点推進会議)、井田徹治(環境ジャーナリスト)、菅波完(高木仁三郎市民科学基金 事務局)、倉澤七生(イルカ&クジラ・アクション・ネットワーク事務局長)、佐場野 裕(日本雁を保護する会、蒲生を守る会)、篠田耕児(海上の森野鳥の会・会員)、熊谷佳二(蒲生を守る会)、松原秀臣(中部の環境を考える会)、綿谷春代(吉野川ひがたの会)、遠藤保男(水源開発問題全国連絡会)、中西剛史(平和の井戸端会議)、田中優(未来バンク代表)、京極紀子(バスストップから基地ストップの会)、久野秀明(自衛隊イラク派兵差止訴訟の会)、竹川未喜男(三番瀬再生会議委員)、棚町精子(HAT-Jの会員)、ミワ・タカシ(埼玉大学教員)、正清太一(9条改憲阻止の会)、村岡到(『プランB』編集長)、杉山隆保(2011憲法フェスティバル実行委員、平和に生きる権利の確立をめざす懇談会)、溝田幸(ぼけまる)、宮野和徳(市民ネットワークさせぼ)、宮野由美子(市民ネットワークさせぼ)、土谷光憲 (NPO法人自然環境復元協会理事)、二見孝一(みどりの未来会員)、福嶋常光(元都立高校教諭 理科生物)、竹ノ内研司(サッポロッカショ)、田英明(憲法を守る臣民の会事務局長)、垣内成子・垣内ゆきこ・垣内冴知(東京の三世代)、林田力(『東急不動産だまし売り裁判』著者)、新城正男(命どぅ宝あいち・事務局長)、寺尾光身(名古屋工業大学名誉教授)、池田柊月(千駄堀を守る会)、川本幸立(千葉県議会議員)、田澤浩一(谷津干潟友の会)、今関一夫(三番瀬を守る署名ネットワーク)、伊藤雄一(三番瀬のラムサール条約登録を実現する会)、岸本紘男(三番瀬カレンダー政策実行委員会)、織内勲(三番瀬を守る署名ネットワーク)、立花一晃(三番瀬のラムサール条約登録を実現する会)、加藤敬美(千葉県野鳥の会)、渡辺優子(三番瀬の楽サール条約登録を実現する会)、立花小枝子(市川三番瀬を守る会)、秋山胖(市川三番瀬を守る会、元文教大学教授)、近藤 ゆり子(徳山ダム建設中止を求める会事務局長)、高橋比呂志(ダム反対鹿沼市民協議会)、萩岡真美(虔十の会)、大束愛子(ふぇみん婦人民主クラブ)、安岡明美(サッポロッカショ、全国うかつに大問題NETWORK@北海道代表)、田久保晴孝(三番瀬署名ネットワーク)、佐藤聰子(自然と文化研究会・theかもめ)、渡辺優子(三番瀬のラムサール条約登録を実現する会)、白山晴雄(パレスチナ連帯・札幌)、太田光征(「平和への結集」をめざす市民の風)、井上裕子(みどりの未来会員)、井上雅代(ももんがともだちネット)、佐藤修(コンセプトワークショップ代表)、続博治(湾奥の干潟と埋立てを考える会・鹿児島)、中川武夫(中京大学教授)、けしば誠一(杉並区議会議員)、仁藤万友美(すずめの木相談室)、宮永正義(自営業・海上の森くらぶ代表)、鬼松成剛(みどりの未来サポーター)、足利由紀子(NPO水辺に遊ぶ会)、河上竜秀(みどりの未来会員)、田口康夫(渓流保護ネットワーク・砂防ダムを考える)、福田静夫(日本福祉大学名誉教授)、野村羊子(東京三鷹市議会議員)、海野修治(岐阜県)、海野昌子(岐阜県)、浅野正富、藤澤英明、親川志奈子、松尾武芳、池田愛美、嶋田久夫、加藤健、山本英司、倉内佳郎、飯沼佐代子、古谷愛子、古谷喜美子、齋藤末子、小林圭二、山田正行、田中直子、谷俊夫、浅田明、大城博、植野史、永井好子、阿部ひろみ、鷹取敦、阪口浩一、田中洌、木村雅夫、木村啓子、渡部治、水谷明子、木村まり、篠崎雄彦、山下洋、福永貢介、福永恭子、福永梢子、星川まり、林伸子、川野亜紀子、山下修子、オオモリメグミ、柴山恭子、大見享子、大原洋子、新海裕美子、向井真澄、山口和子、齊藤一美、渡辺泰子、澤功、大浜清、上野英雄、崎山比早子、浦崎成子、斎藤信介、斎藤淳子、松田精一、松田美恵子、松田アサカ、松田碧、松田蒼、土橋由実子、村瀬佐知子、荻布律子、増田栄美子、川端純子、浮穴佳菜、西晴弘、西昌子、西陽子、辻尾節子、貴志真澄、岡本金子、徳留通恵、山田真紀、木村佳世子、今北かよ、佐々木武子、松田成子、松田義老、西岡かおる、西岡秀夫、田中眞弓、田中英男、綾部美和子、沖智子、片山友邦、佐々木美穂子、板谷幸子、花木美和子、花木啓、奥村智美、森下敬子、五十嵐聡、大城奈里子、馬場あゆみ、豊島幸一郎、荒井理美、江野三彦、田中慶子、田中和恵、宇田純子、吉沢洋子、川原淑恵、五郎川花子、久松重光、伊藤よしの、増田博光
以上、34の団体と186の個人
2010年08月12日掲載