水質・防災・財政負担......深刻な問題が噴出する韓国四大河川開発事業

ラムネットJ理事 菅波 完

 9月21日から24日まで、ラムネットJとして、韓国の四大河川開発事業の視察ツアーを実施しました。
韓国四大河川開発事業の地図

(地図はクリックで拡大します)

 四大河川開発事業とは、ハンガン(漢江)、ナクトンガン(洛東江)、クムガン(錦江)、ヨンサンガン(栄山江)の4河川において、合計18カ所の大規模な堰(ダム)を建設し、河道を大規模に浚渫し、河川敷にはサイクリングロードを建設することなどを中心とする極めて大規模な河川開発事業で、2012年までに工事は終了しています。このような大規模開発(=河川生態系の破壊)を、李明博政権は「グリーン・ニューディール」という美名のもとに、日本の開発事業とは比べものにならない猛烈なスピードで強行してしまいました。
 ラムネットとしては、すでに2010年の2月と7月に現地視察ツアーを行うなど、韓国のNGOと連携しながら、この問題に注目し、李明博政権への事業見直しの申し入れなども行ってきた経緯があります。今回は、事業実施後の実態を視察することを目的としてツアーを行いました。
 参加メンバーは、今本博健さん(京都大学名誉教授)、高田直俊さん(大阪市立大学名誉教授)、遠藤保男さん(水源開発問題全国連絡会)、武藤仁さん(長良川市民学習会)と、ラムネットJから陣内隆之さんと菅波で、現地でのコーディネートと通訳をラムネットJ韓国事務局の田中博さんにお願いしました。
 今回のツアーの行程は地図に示した通りで、ナクトンガンでは河口と中流の湿地、中流の2カ所の堰、さらに源流の上流部のダム開発の現場、ハンガンでは中流の2カ所の堰などを視察した後、最終日にはソウル市内で記者会見を行いました(ハンギョレ新聞、キョンヒャン新聞、オーマイニュース、TBS(韓国の放送局)、聨合通信などで報じられました)。


ナクトンガン中流のカンジョン堰。写真で見るより実物は、はるかに巨大です。

事業の影響についてファン・インチョルさん(グリーンコリア)などに解説してもらいました。

 今回、視察した現場では、確かに大規模で「近代的」な可動堰が建設されていました。河川工学が専門の今本先生も、韓国の河川工事技術が飛躍的に向上したことを評価しておられましたが、そもそも河川の中流域に複数のダムを建設して洪水調整をはかるということは、具体的なゲートの運用を考えても非現実的であり、根本的に無理な事業であることを、今回のツアーでもあらためて指摘されていました。一方で、四大河川の河道を浚渫し、河床が低下したことで、支流の水位も低下し、護岸や橋の基礎部分が深掘れして、橋が使えなくなっているような現場も視察しました。
 当初から懸念されていたとおり、豊かな生態系を支えていた河川敷や湿地の植生などが失われたため、渡り鳥の飛来数などが激減していることを、韓国のNGOメンバーが解説してくれました。
 また、ダムの建設により、川の流れが停滞し、アオコが大発生して、魚の大量死なども招いているとの話も聞きました。アオコの大発生は諫早湾の調整池を思わせる状況ですが、まずは、ダムのゲートを開放して河川の流れを回復させるべきであり、本質的には、堰を撤去して、失われた生態系の回復を目指さなければならないことを痛感しました。
 防災・水質面での問題の深刻化は、当然ながら、今後の財政負担につながるものであり、ただでさえ2兆ウォンの巨費を投入した開発事業は、今後さらに、韓国経済の重荷になることが懸念されます。

かつての豊かな川の風景が残されているネソンチョン(ナクトンガンの源流の一つ)にて。

 今回のツアーでも、韓国のNGOのみなさんには大変お世話になりました。韓国でも日本でも、厳しい現状がありますが、そうであるからこそ、長年にわたって培ってきた日韓NGOの協力関係を大切にしながら、両国の干潟・湿地の保全・再生に取り組んでいきたいと思っています。
※地図はThe Anticipated Impacts of the Four Rivers Project (ROK) on Waterbirds Birds Korea Preliminary Report(Birds Korea, 2010)掲載の図を元に作成

ラムネットJニュースレターVol.18より転載)

2015年02月16日掲載