湿地巡り:加茂川河口干潟(愛媛県)

特定非営利活動法人 西条自然学校 光澤安衣子

kamogawakakou-map.jpg
 瀬戸内海の燧灘(ひうちなだ)に面し、西日本最高峰の石鎚山を抱える愛媛県西条市は、海から山まで多様な自然環境を有します。干潮時、石鎚山系を源流とする加茂川の河口には、瀬戸内海有数の広さを誇る300ha以上の干潟が現れます。ここは、シギ・チドリ類をはじめ多くの渡り鳥が渡来することで、日本の重要湿地500や重要野鳥生息地(IBA)に選定されています。また、この干潟の環境は一様ではなく、河口から3kmほどの間にヨシ原・砂礫・砂・泥...と多様な景観が連続して存在します。多様な生物が生息するために、多様な環境が存在することはとても重要なことです。たとえば多くの種が巣穴を掘って暮らすカニ類にとって、底質環境こそが、そこに生息できるかどうかの決め手となります。ヨシ原を覗くとアシハラガニやハマガニなど大型のカニの巣穴があり、礫をめくるとユビアカベンケイガニやカクベンケイガニが驚いたように隠れる様子が見られます。泥が溜まっているところではヤマトオサガニ、砂地ではコメツキガニやオサガニがハサミを振って求愛ダンスを踊り、季節によって生き物たちは賑わいをみせています。
 特定非営利活動法人 西条自然学校は、地域の自然を正しく理解し、伝えることで自然環境の保全を考える人を増やす活動をしています。2014年の干潟生物調査プロジェクトでは、地域の皆さんや専門家の方と観察会や調査を20回以上行い、26種のカニ類を含む160種以上の生き物の生息を確認できました。
 加茂川河口干潟はビジターセンターなどの施設もなく、多様で貴重な干潟が残されていることは、全国的にはもちろん県内にもあまり知られていません。しかし、全国にはまだこのような自然環境が残されている場所があるはずです。すでに失われてしまった自然環境を回復するためには、多大な労力とお金が必要となってしまいます。残されている自然に目を向け、正しく把握し記録に残すことが、現在の私たちが保全のためにできることのひとつだと考えています。

kamogawakakou-1.jpg
広大な加茂川河口干潟から石鎚山系を一望できる

市民参加型調査の様子

ラムネットJニュースレターVol.19より転載)

2015年05月27日掲載