湿地巡り:多摩川河口干潟(東京都・神奈川県)

NACS-J自然観察指導員東京連絡会 山口義明

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 全長138kmの多摩川。河口部では、東京側が羽田空港、神奈川側が工場地帯という景色の間を流れ、東京湾に注ぎます。多摩川は、全体的に、堤防は備えているものの、都市部の河川としては、コンクリートの護岸化が少なく、自然環境が多く残っています。河口部では、シギ・チドリを中心とした旅鳥の中継地としても有名です。
 多摩川の歴史は水質汚染の歴史であり、1970年代の多摩川は「死の川」でした。多摩川の水の多くは人工排水のため、未処理の生活排水が流れ込むことで汚染されたという過去があります。しかし、逆の視点では、この生活排水が汚染されていなければ、水質は保全できたわけです。そこで、当時、一般的な排水基準よりも厳しい基準を設定することで、水質改善に成功し、現在の多摩川に至っています。今ではアユの遡上も当たり前になりました。しかし、多摩川の水は、現在においても約70%が、人工排水で構成されているという環境は、変わっていません。

5月の観察会
5月の観察会
アシハラガニ
アシハラガニ

 東京湾内の干潟の多くは埋め立てられ、多摩川河口干潟は、東京湾内西岸では唯一の天然干潟となっています。大型河川である以上、台風などによる濁流で、干潟にも多大な影響が出ることが常ですが、多摩川河口干潟は、このような洪水に遭っても生態系に影響が生じない干潟です。それだけ水生生物を中心とした干潟の生態系が強固に備わっているといえるでしょう。
 残り少なくなった多摩川の自然を残す目的で河口干潟は、「生態系保持空間」が設定されており、基本的に人間の手が入らないようになっています。
 2014年5月、政府は、羽田空港と多摩川対岸の川崎方面を直結する連絡橋建設方針について発表を行いました。貴重な干潟が残る河口部に、新しい橋を建設することについて、数多くの自然保護団体が反対表明をしています。NACS-J自然観察指導員東京連絡会では、毎年5月に多摩川河口干潟観察会を実施しています。この観察会は連絡橋建設候補地となっている現場で開催することで、干潟保全の必要性を参加者に訴えています。生き物観察だけではない、大切な活動を行っています。

ラムネットJニュースレターVol.21より転載)

2015年11月22日掲載