オオタカの傘と種の保存法
日本野鳥の会参与/ラムネットJ理事 金井 裕
オオタカは森林性の猛禽ですが、冬は片野鴨池などで観察されるように、カモたちを狙って水辺にもやってきますので、湿地関係の方々も見たことがあるでしょう。オオタカは、里地の樹林を主な生息環境とし、数が少ない上に密猟が横行していたため、日本の第一次レッドリスト(1991年)で危急種に、IUCNの基準が導入された第2次レッドリスト(1998年)では絶滅危惧Ⅱ類に選定されました。
1993年に制定された種の保存法で、国内希少野生動植物種へ指定されました。この法律では指定種の捕獲や譲渡を厳格に禁止しているほか、生息する土地の管理者に対し保護の義務を課しています。1996年には、環境省が発行した「猛禽類保護の進め方(特にイヌワシ,クマタカ,オオタカについて)」で、営巣場所とその周辺や採食場所の面的な保全が必要であることが示されました。開発時に残すべき緑地の範囲や植生計画について検討が行われ、まとまった樹林や緑地が確保されることになりました。オオタカは生物多様性を守る傘、アンブレラ種として大規模開発に対するブレーキとなっているのです。
オオタカが里地を守ったもっとも有名な事例が愛知県の海上の森です。2005年に開催された愛知万博は、当初は海上の森が会場予定地でしたが、多くの生き物が生息する重要な里地であるとして反対活動が行われていました。1999年にオオタカの営巣が確認されたことから会場予定地は変更され、里地環境の重要性が世に広まりました。その後の生物多様性条約COP10の開催と愛知目標もオオタカが導いたともいえます。
尾崎研一・遠藤孝一 2008
オオタカの生態と保全 日本林業協会より
営巣樹林
巣は樹高20m以上の針葉樹(マツ、スギ、モミ)の木の又、枝の付け根、 太い枝の先に造ることが多いが広葉樹の場合もある。巣の周囲には飛翔のために空間が必要
密猟監視など保護活動の成果により生息数が絶滅の恐れの少ないレベルに達したということで、2006年の第3次レッドリスト、2012年の第4次リストでも準絶滅危惧種とされました。環境省は種の保存法の「国内希少野生動植物種」からの解除の検討を開始しています。
国内希少種から解除されると、法制上の生息地保全の義務もなくなることになります。オオタカが地域の自然環境の保全にとっての傘として機能できるように、あるいは里地の保全が確保される法制度が整えられるまでは、種の保存法の指定種から解除すべきではないというのが、日本オオタカネットワークや日本野鳥の会など自然保護関係者の考えです。地域環境の保全のために、オオタカの生息を保全してゆく姿勢を堅持してゆかなければなりません。
オオタカの生息数と保護施策年表
1981 | 栃木県と東京都で密猟監視スタート |
1983 | 特殊鳥類指定 |
1984 | 生息個体数 500羽以下(日本野鳥の会・環境省) |
1989 | オオタカ保護ネットワーク 発足 |
1991 | 第1次レッドリスト 危急種 |
1993 | 種の保存法 国内希少野生動植物種指定 |
1996 | 生息個体数 1000羽以上(日本野鳥の会・環境省) |
環境省「猛禽類保護の進め方」を策定 | |
1998 | 第2次レッドリスト 絶滅危惧・類 |
2005 | 生息個体数 1824〜2240羽(環境省) |
2006 | 第3次レッドリスト 準絶滅危惧種 |
2008 | 推定個体数 関東周辺に約5800羽の可能性(尾崎ほか) |
2012 | 第4次レッドリスト 準絶滅危惧種 |
環境省「猛禽類保護の進め方」を改訂 |
【参考】
*種の保存法:「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」の略称
*「猛禽類保護の進め方(特にイヌワシ,クマタカ,オオタカについて)」:環境省は2012年12月に改訂。https://www.env.go.jp/nature/yasei/raptores/protection/guide_h2412.pdf
*尾崎研一・遠藤孝一(2008)「オオタカの生態と保全」日本林業協会:オオタカの生態と保全について知りたい方はこの本をお読みください(上写真)
(ラムネットJニュースレターVol.23より転載)
※誌面では掲載できなかった写真と表を追加しました。
2016年05月23日掲載