沖縄問題に関するラムネットJからのメッセージ

 ラムサール・ネットワーク日本では、湿地保全にも関連する沖縄の環境破壊の諸問題に対する立場を表明するために、下記の「沖縄問題に関するメーッセージ」を、2016年の通常総会で決議しました。以下のPDFファイルには、下記のメッセージ本文に加えて、参考資料が付属しています。
「沖縄問題に関するメッセージ」PDFファイル



沖縄問題(特に辺野古新基地建設、泡瀬干潟等の埋め立て、高江ヘリパット建設など)に関するラムサール・ネットワーク日本からのメッセージ


1. なぜ今、私たちはメッセージを発信しなければならないのか

 沖縄では、1972年の本土復帰以降、公共事業への過度な依存が進み、貴重な観光資源でもあるはずの自然を破壊し続けてきた。沖縄本島の中・南部の海辺はどこも埋め立て地だらけで、県面積に占める埋め立て面積の割合は全国でもトップクラス。その他の島でも新石垣空港の建設やリゾート開発などの事業により、かけがえのない自然が破壊されてきた。
 そうした中、「コンクリートから人へ」を理念とした民主党政権が2009年に誕生し、米軍普天間基地の「最低でも県外移設」や泡瀬干潟埋め立て中止を公約した鳩山内閣に大きな期待を持った。ところが、政権内部の不協和音や官僚への対応の未熟さから、従来の政官業癒着構造の前に、公約は次々と反故にされ、辺野古新基地建設や泡瀬干潟埋め立て推進へと転じてしまった。中でも裁判で「埋め立ての公金支出差し止め」が確定した泡瀬干潟埋め立てが形を変えて推進されたことは、民主主義に対する挑戦であった。さらに、安倍自公政権になると、辺野古新基地建設をはじめとする自然破壊事業が、民意を無視して強権的に進められるようになった。安倍内閣の沖縄問題への対応は、国民主権・基本的人権の尊重・平和主義を原則とする憲法を無視した暴力政治であり、私たちは、こうした異常事態に直面し、改めてラムサール条約の精神に基づく持続可能社会の実現をアピールせずにはいられない。

2. ラムサール条約の理念

 ラムサール条約(湿地保全に関する国際条約)では『湿地のワイズユース』を目的としているように、湿地は、様々な生きものの生息地としてのみならず、私たちの暮らしを支える重要な場所である。地球は水の星であり、水の循環による多様な生態系が、私たちのいのちと暮らしを支えている。湿地は、降雨を集めて水を私たちに提供してくれるほか、嵐や洪水の被害を小さくし、そこに生きる多様な生きものが支える食物連鎖によって私たちの食をも支えている。また、かけがえのない学びや安息の場でもあり、観光資源としても貴重な場所である。私たちの先輩である先住民は、自然の恵みに感謝し、持続的に受け継いでいけるように暮らしてきた。先住民に学ぶということもラムサール条約の大切な理念である。

3. 沖縄の自然に対する様々な脅威

 辺野古・大浦湾、泡瀬干潟、大嶺海岸、浦添海岸は、いずれもラムサール条約登録湿地の潜在候補地であり、海草藻場やサンゴ礁などが多様に広がり、新種や絶滅危惧種の生息する極めて貴重な場所である。沖縄県の「自然環境の保全に関する指針」でも最上級の評価であり、辺野古などは、海岸保全条例の対象にもなっている。いずれの海域も、いったん埋め立てられると現況への自然への回復は不可能となってしまう脆弱な生態系である。生物多様性条約の愛知目標を達成するには、これら沖縄の海域を保全することは不可欠である。辺野古埋め立てが進めば、埋め立て用の砕石の供給元である瀬戸内、門司、天草、五島、佐多岬、奄美大島、徳之島などの環境破壊も深刻となる。翁長県政は、辺野古新基地建設に反対し、承認取り消しを決定したが、私たちはこれを全面的に支持する。同時に、泡瀬干潟や大嶺海岸、浦添海岸についても埋め立て見直しを決断することを強く求める。自然環境的な価値の貴重さを同じくするこれらの場所で二重基準(ダブルスタンダード)は許されない。辺野古・大浦湾、泡瀬干潟、大嶺海岸、浦添海岸はいずれもラムサール条約湿地に登録されなければならず、国および地元自治体の協力を要請する。

 また、軍事基地が生態系に与える影響も深刻である。たとえば、沖縄・金武町の米軍海兵隊基地(キャンプハンセン基地)は、実弾射撃訓練で山火事を発生させ、環境破壊の元凶となっている。東村高江における米軍ヘリパット建設と軍事訓練は、固有の生態系として貴重な価値を有するやんばるの森を破壊し、生物多様性に悪影響を及ぼす。宮古島や与那国島での自衛隊基地建設も、湿地などの自然環境に悪影響を与える。私たちは、自然環境破壊をもたらすこれらの軍事基地建設に反対する。リゾート開発では、西表島・トドゥマリ浜や竹富島・コンドイ浜などにおける開発が心配である。私たちは、かけがえのない自然を破壊するこれらリゾート開発に反対する。
 環境省は、20165月、「生物多様性の観点から重要度の高い重要海域」を選定した。沖縄の周辺海域は、辺野古・泡瀬海域などほとんどの海域が重要海域であり、将来的にはその10%程度が「保護区」に指定される予定である。環境省はまた、2001年に選定した「重要湿地500」の見直しを進め、20164月に「生物多様性の観点から重要度の高い湿地=重要湿地」を公表した。全国で633箇所、沖縄では中城湾(泡瀬干潟)、大浦川及び河口部など66箇所が選定されている。

4. 連帯の誓い

 このように、沖縄は本土資本による自然破壊の草刈り場と化している。「オール沖縄」で支えられた翁長県政が進める辺野古新基地建設阻止行動が私たちに問いかけるものは、ラムサール条約の目標である持続可能社会の実現であり、「コンクリートから人へ」の理念実現ではないだろうか。自由・平等・人権・自己決定権をないがしろにされてきた歴史をふまえた沖縄からの問いかけは、国家統制社会への変貌に繋がる憲法改正を目論む安倍内閣の強権政治を前にして、極めて重い。私たちは、自立と共生にもとづく持続可能社会の実現をめざし、かけがえのない沖縄の自然を守るため、民主主義を守り自然保護を願う多くの団体と連帯し行動する。

2016年6月19日
ラムサール・ネットワーク日本
2016年通常総会で決議

2016年06月29日掲載