「地球湿地概況(GWO)」が公表されました

ラムネットJ理事 永井光弘

 ラムサール条約第13回締約国会議(COP13)において「地球湿地概況(Global Wetland Outlook)」(以下「GWO」といいます)が発表されました。
 GWOは、ラムサール条約事務局が世界の湿地の現状と傾向、対応について初めて網羅的にまとめた報告書です。英文で、サマリー(要約)8頁、全体で88頁という大部ですが、写真や図表が豊富に使われており、とっつきは悪くないです。2019年前半には環境省からの邦訳が出される予定との情報もきいていますので、よりアクセスしやすくなるでしょう。
 GWOについては、COP13の本会議の中でも、STRP(科学技術委員会)代表がプレゼンテーションを行っていました。今後しばらくは湿地の保護を語る際の最重要資料となるでしょう。

GWOの表紙(左)と湿地の増減の解説ページ(右)
GWOの表紙(左)と湿地の増減の解説ページ(右)。以下のURLのページから、PDF版のGWOをダウンロードすることができます。https://www.global-wetland-outlook.ramsar.org/outlook


 さて、GWOによれば、「1970年以降、湿地の約35%が消滅し(森林消滅の3倍のスピード)、陸域の湿地に生息する種の81%、沿岸・海洋域の種の36%が減少した。」「湿地に依存する種の25%は絶滅の危機にある。」と危機的な状況が報告されています。
 その他にも、湿地の種別(陸域、沿岸域、人工湿地)や、湿地の所在地域別(アフリカ、アジア、ヨーロッパ等)、各湿地に依存する種の別(海草、サンゴ、両生類、ウミガメ、水鳥、ほ乳類等)に、その現状と傾向の分析が報告されています(たいがい危機的です)。
 今回のCOP13では、GWOを踏まえた決議が多数採択されています。例えば、GWOでは泥炭湿地に極めて強力な炭素吸収力があると報告され(陸地の3%に過ぎないものの世界の全森林の2倍の炭素吸収量)、これが決議13「気候変動への緩和と適応、生物多様性の強化のための劣化した泥炭地の再生」に結びついています。炭素吸収に関しては、同じく沿岸域湿地の炭素吸収力に着目した決議14「沿岸域におけるブルーカーボン生態系の保全、再生、持続可能な管理の促進」も挙げられます。また、GWOは湿地に依存する種の現状分析を行い、特に沿岸域に依存しているウミガメの絶滅危惧指数を100%としており(ちなみに淡水爬虫類40%、サンゴ33%)、これが決議24「ウミガメの繁殖、採餌、子育て地の保全の強化と重要な地域のラムサール条約湿地への登録」につながっています。
 GWOは、悲観的な現状報告にとどまることなく、健全な湿地の保全と回復に向けた指針も示しています。ラムサール条約湿地として登録するだけではなくきちんと管理していくこと、開発計画に湿地保護を組み入れていくこと、縦割りを廃した湿地保護の法と政策をあらゆるレベルで推し進めること、地域社会やビジネスにむけ湿地保護による経済的インセンティブを適用すること等々です。
 総じて、GWOには、現状に対する危機感とともに、ラムサール条約が湿地保護に特化した唯一の国際条約であって50年近くもその役割を担ってきたという強い自負心を感じます。私たちもこの思いを共有し、今後、GWOを存分に活用していきたいと思います。

ラムネットJニュースレターVol.34より転載)

2019年02月07日掲載