志津川湾がラムサール条約湿地に登録されました
南三陸町農林水産課任期付研究員 阿部拓三
2018年10月18日、南三陸町の志津川湾は日本で52番目のラムサール条約湿地となりました。志津川湾は宮城県の北東部にあり、リアス式海岸が連なる三陸復興国立公園の南部に位置します。深く入り込んだ湾は三方を山に囲まれ、穏やかな環境を利用した養殖業が古くから行われるなど、豊富な海産物が人々の生活を支えてきました。
志津川湾
その豊かさを象徴する自然環境が、海の中に広がる森や草原です。海藻の森や海草(アマモなどの種子植物)の草原は「藻場」と呼ばれ、陸上の森や草原と同様に、生態系を支える重要な役割を果たしています。特に志津川湾では、冷たい海を代表するコンブ類のマコンブと、暖かい海を代表するコンブ類のアラメの藻場が共存する独特の自然環境となっています。このことから、2010年9月、志津川湾は環境省が選定する「ラムサール条約湿地潜在候補地」に選ばれました。さらに、絶滅危惧種タチアマモを含む海草種群の多様性などから、「日本の重要湿地500」にも選定されています。これまでの調査から、210種以上の海藻・海草類が確認され、さらに550種以上の海洋生物が確認されています。
こうした生物多様性に大きな影響を与えているのが、南三陸沿岸を流れる海流です。南から流れる暖流の「黒潮」と、北から流れる寒流の「親潮」、さらに、日本海を北上する暖流の対馬海流が津軽海峡を東に抜け、その後三陸沿岸に沿って南下する「津軽暖流」の3つの海流の影響をバランスよく受けているのです。こうした海洋環境を背景に、それぞれの海流に由来する生物種が分布するユニークな自然環境を形作っています。
また、志津川湾では毎冬100〜200羽程のコクガンの渡来が確認されています。コクガンは国の天然記念物で絶滅危惧種にも指定されている希少種です。海藻のアオサ類や海草類の葉を主に食べるため、餌の供給源となる海藻・海草藻場の安定した存在は、コクガンが安心して越冬するための環境条件を十分に満たしているのでしょう。藻場は、ウニやアワビ、魚類をはじめとする磯根資源(磯に根付いて生活する水産業に重要な動植物)を育む重要な存在です。藻場を保全することは、コクガンをはじめとする水鳥たちの生活域を守ることにもつながります。コクガンは、志津川湾の恵みを未来へつなぐ象徴的な存在と言えます。
アラメの藻場
コクガン
東日本大震災後、南三陸町は「森 里 海 ひと いのちめぐるまち南三陸町」をスローガンに自然と共生するまちづくりを進めてきました。一方で、三陸沿岸では大規模な復旧工事が長期間継続し、環境は大きな変化を続けています。人の営みと自然環境の保全のバランスをどう保っていくのかが大きな課題です。地域の自然は地域の宝です。地域の方々がその宝に親しみ、理解し、そして伝える取り組みを継続することが必要です。今回のラムサール条約湿地への登録が、地域を越えた大きな動きに繋がっていくことを願っています。
(ラムネットJニュースレターVol.34より転載)
2019年02月07日掲載