豊岡の条約湿地拡大とコウノトリの現状について

コウノトリ湿地ネット代表/ラムネットJ理事 佐竹節夫

■条約湿地が拡大
 昨秋のドバイでのCOP13において、円山川下流域・周辺水田の登録エリアが拡張されました。2012年に、円山川の河口から11.4kmと周辺4地区の水田・ハチゴロウの戸島湿地など155haが登録済であり、今回さらに円山川が6.2km延伸され、支流の出石川が合流部から3.0km、2地区の水田236haが加わって、合計1094haの条約湿地となりました。
 今回の拡張は、コウノトリの野生復帰に取り組む豊岡市にとって、生息に適する水辺環境がまとまって存在する円山川下流域は順次条約に登録していこう、との戦略(?)に基づいたもので、その第二弾というわけです。ですから、今後も引き続き、野生復帰の進展と併行して、登録エリアが拡張され続けていくよう要望し、活動していきたいと思います。
 ところで今回の拡張では、喜んでばかりはいられない面もありました。何せ、第一弾の管理計画がいまだ策定されず、そのために治水工事最優先の現状があり、住民にとっては条約登録の意義・成果が実感できずにいます。まちづくりの方向性のないまま行政による登録手続きだけが独りで歩いているように見えます。ここは一度、民主主義と地方自治に基づいて、多様な主体で湿地を保全・再生しワイズユースしていく筋道を築いていくことだと思います。とても難しいように見えますが、「コウノトリ野生復帰」を核に置くと、案外すっきりと整理でき、次の一歩を踏み出せることがあります。野生復帰の様子を少し見てみましょう。

拡張エリアの中核・加陽湿地と出石川
拡張エリアの中核・加陽湿地と出石川
拡張エリアの伊豆地区の田んぼ
拡張エリアの伊豆地区の田んぼ

■繁殖地が拡大
 コウノトリの数が約150羽と増加し、全国各地を飛翔するうちに、いくつかの地でペアができ、繁殖するようになってきました。今年もどこかの地で新たなカップルができて営巣してくれることを願っています。そして、いくつかの地域で、単独繁殖→地域個体群へと進展していけば、ようやくコウノトリの将来像は明るくなったと言えるでしょう。
 地域個体群が形成される過程を、豊岡での先行事例で見てみましょう。まず、10km四方くらいのエリアで数ペアがテリトリーを持ちながら継続して繁殖し、次の新ペアはその外で営巣。やがて周辺の自治体に広がっていくというものです。昨年は、東の京丹後市や南の養父市へ繁殖地が広がりました。この事例を基に、繁殖が成功した雲南市や鳴門市を考えてみます。定着する繁殖ペアのデコイ効果もあって、他の個体が来るようになります。そこで、繁殖を誘引していくものとして、人工巣塔とビオトープの設置が効果的です。当会では、既に京丹後、雲南、高砂に設置し、今、長浜で準備中です。
 野生復帰には、水田、河川、ビオトープ等の湿地保全・再生・創出を官・民幅広く連携して進めることが必要です。ラムサールの考えを導入するとさらに効果的です。複数のまちを超えて生息するので、隣のまちとも連携が必要です。さらに言えば、海の向こうとも連携しなければ将来が見えてきません。

韓国から五島市に飛来した個体
韓国から五島市に飛来した個体(2018年11月28日)撮影:西日本新聞・柿森英典氏
韓国全羅南道咸平(ハムピョン)郡
左から2羽目が豊岡からのJ0094♂、その左は北からの越冬個体、他の4羽はイエサン郡からの放鳥個体。韓国全羅南道咸平(ハムピョン)郡で(2018年11月11日)

■日韓の交流が拡大
 昨秋、大陸との連携を促す2つの象徴的な出来事がありました。韓国の飼育施設を飛び立った1羽が11月に長崎県五島市に舞い降り(1月21日現在滞在中)、10月には豊岡を出た1羽が韓国の全羅南道に舞い降りて、イエサン郡からの放鳥個体や北からの越冬個体と一緒に過ごしたのです。人間より鳥の方が常に一歩先に進んでいます。負けてはいかんと、年末に訪韓し関係者と熱く語り合ってきました。ゴールは、東アジア全体での生息を取り戻すことです。一つ一つ課題を切り拓いていかねばなりません。それには、それぞれがそれぞれの地で考えるのでなく、足を運び、顔を突き合わせて一緒に考えること、それを積み上げていくことが大事と実感した次第です。

ラムネットJニュースレターVol.34より転載)

2019年02月07日掲載