第4回 田んぼの生物多様性向上10年プロジェクト全国集会報告
●2月24日/TKP東京駅八重洲カンファレンスセンター
ラムネットJ共同代表 安藤よしの
田んぼ10年プロジェクトは具体的な活動を始めて7年目に入りました。登録者数は約250団体/個人に増え、日本各地で20回以上の会合を開催し、交流・情報交換を行ってきました。今回の全国集会は国連生物多様性の10年の最終年(水田目標の達成年)2020年に向けてこれまでの活動を振り返り、2020年以降の活動計画作成に向けた意見交換を行うために開催しました。
第1部では、ラムネットJの呉地正行共同代表が基調報告として、なぜ田んぼの生物多様性向上なのかという基本を説明したうえで、ラムサール条約COP13でのサイドイベント「水田決議これからの10年」等の海外での活動や、2020年以降の「新・田んぼ10年プロジェクト(仮称)」構築に向けて活動を始めたこと等を報告し、続いて国内での地域集会等について安藤が報告しました。民間稲作研究所の稲葉光國氏は、JICA筑波の委託事業として実施した「ブータン王国における循環型有機農業支援プロジェクト」について報告しました。抑草や、水を温める・生きものを増やすためのビオトープ整備にも成功し、米の収穫量も1.5倍に増えたことなどが報告されました。
第2部では、この活動の大きな課題の一つ、「生産者が頑張って生物多様性に配慮した米を作っても、販売に結びつかず、取り組む農家が増えない」という問題について、「市民の消費行動を変えるために」というテーマで5人のゲストスピーカーに事例紹介をしていただきました。
琵琶湖博物館・琵琶湖地域の水田生物研究会の大塚泰介さんは、研究会では「田んぼの生きもの全種リスト」の増補更新とデータベース化を進めており、愛知目標・水田目標のゴール達成の年、2020年の発表を予定していることなどを報告しました。河北潟湖沼研究所の髙橋久さんは、「生きもの元気米」の取り組みでは、消費者の関心は生物多様性というより安全性や価格であることのほうが多いという課題があり、一方農家は田んぼが生きもので評価されるので、生きものへの関心が高まってきていると報告しました。千葉県いすみ市農林課の鮫田晋さんは、いすみ市では学校給食全量を有機米にすることに成功し、生徒に食農教育を行うことで親も変化してきたことや、次世代に元気な地域を受け継いでいくことを目指していることを報告しました。JA全農SR推進事務局の山崎俊彦さんは、食と農の変化について、自給率の低下、身近に農がなく関心も低下するなどの課題をあげ、JA全農で実施している田んぼの生きもの調査などの活動を紹介、新たな農の方向性として「生きものとの共生」を挙げました。いばらきコープの鈴木礼子さんは、お米の生産者と消費者をつなぐ活動としての「田んぼの学校」では、田植えや田んぼの生きもの調べに多数の子どもたちが参加していることなどを報告しました。
集会に参加されたみなさん
第3部のディスカッションの様子
第3部のディスカッションでは、オリザネットの斉藤光明さんが「水田決議の検証とこれから進む方向」について話題提供し、「食料・農業・農村基本計画」などのヒアリングで意見を言っていくことも大切であると指摘しました。その後、「生物多様性が基盤であることは評価されている(豊岡・佐渡などの例)」「学校教育を活用して子どもたちから拡げる」「種子法が廃止されたが自治体の取り組みが重要となってくる」「農業の多面的機能は米生産量の2.5倍の価値があり、市場に託すのは無理があるので、農業者+研究者で共同管理するのが良い」「U字溝をV字溝に替えるだけで助かる生きものが増えるので、替えていくように働きかけよう」など、多くの重要な意見が出されました。田んぼ10年では、これらの議論をベースにゴールを設定し、参加者とともに2020年以降の活動を作り上げていくことにしました。
(ラムネットJニュースレターVol.35より転載)
2019年05月01日掲載