琵琶湖でふえてきたミクロの外来生物
琵琶湖博物館/ラムネットJ理事 大塚泰介
琵琶湖で問題になっている外来生物といえば、オオクチバスやブルーギルなどの魚類、あるいはオオバナミズキンバイやナガエツルノゲイトウなどの植物が有名です。1cmに満たないフロリダマミズヨコエビやアメリカナミウズムシをご存知の方もいらっしゃるでしょう。しかしそれよりさらに小さい、ミクロの外来生物については、あまり知られていないと思います。この30年ほどで侵入したと思われる琵琶湖のミクロの外来生物を2種、紹介します。
1. カワムラユレモ Oscillatoria kawamurae
細胞内にガス胞をもち、水面に浮いてアオコをつくるラン藻(シアノバクテリア)の一種です。円盤状の細胞が多数重なって糸状の群体をつくっています。ユレモの中ではひときわ大型で、直径0.06〜0.08mmほど、細めの毛髪くらいの太さです。長さは数cmに達することもあります。しかしカワムラユレモは肉眼では濃褐色に見え、また群体の一本一本が肉眼でも見えるので、大発生するとアオコというよりもむしろ、散髪後の床の上のようなありさまになります。
ミクロ生物において、外来種であることの証拠をつかむのは容易ではありません。そもそもどんな在来種がいるのか、十分にわかっていないことが多いからです。しかしカワムラユレモについては、外来種であると考えるに十分な証拠があります。カワムラユレモは故 根来健一郎博士により、中国東北部(当時の満州)から1944年に新種記載されました。琵琶湖で初めて発見したのも根来博士で、1990年のことでした。根来博士は1948年に京大臨湖実験所の助教授として琵琶湖のほとりに赴任し、後に近畿大学の教授となられてからも、定年退職後も、ずっと琵琶湖のプランクトンを観察されてきました。その根来博士が、自ら新種記載した、しかもこんなに目立つカワムラユレモを、40年以上も見逃してきたわけがありません。だからカワムラユレモは、ほぼ確実に外来種と言えるのです。
カワムラユレモ
ミクラステリアス・ハーディー
2. ミクラステリアス・ハーディー Micrasterias hardyi
和名アワセオオギと呼ばれる、美しい接合藻(緑藻に含めることもある)のなかまで、長さ0.2mm近くもある大型種です。オーストラリアやニュージーランド原産の種ですが、2011年に突如として琵琶湖に現れ、2016年の秋から翌春にかけて優占種になりました。その後も毎年、まとまった数が出現しています。大きすぎてミジンコに食べられないので、ミジンコの減少、ひいてはそれを食べるコアユやホンモロコの減少につながるのではないかと懸念されています。
ミクラステリアス・ハーディーは、琵琶湖北湖が成層する時期でも、水温が急に変わる層(水温躍層)の上に引っかかるようにして集まっています。これは光合成量が呼吸量を上回り、増殖できるギリギリの深さです。比重が1よりも大きく、しかも大型で沈みやすいはずなのに、どうやって沈まずにいられるのでしょうか。危険な外来種ながら、興味は尽きません。
(ラムネットJニュースレターVol.37より転載)
2019年11月18日掲載