報告:ラムネットJ設立10周年シンポジウム〈第2弾〉ラムサール条約の実施とNGOの役割〜水の自然な流れを守るために〜
ラムネットJでは設立10周年シンポジウム第2弾を、8月25日に東京のYMCAアジア青少年センターで開催しました。
ラムネットJの高橋久共同代表の開会あいさつの後、韓国ナクトンガンの保全に関する緊急な行動で来日できなくなったパク・チュンロクさん(韓国湿地NGOネットワーク運営委員長)からのメッセージを、キム・キョンチョルさん(4大河川調査評価企画委員会委員)が代読しました。続いて、陣内隆之共同代表が開催趣旨を説明し、特別講演をお願いした元ラムサール条約事務局次長のニック・デイビッドソンさんのプロフィールやイギリスから招いた経緯などを柏木実理事が紹介しました。
■デイビッドソンさんの特別講演
デイビッドソンさんは「世界の湿地の重要性と状態」というタイトルで講演しました。湿地には各種のタイプとそれに応じた生態系サービスがあり、その経済的価値は年間約50兆ドルで森林の2倍に上るそうです。しかし、1970年以降35%の湿地が失われ、近年は消失が2倍に加速しています。湿地に依存する種も減少し、残されている湿地も、特にアフリカや中南米で状態が悪化しています。
なぜこのような状況が続いているのか、デイビッドソンさんは次の3つの仮説を挙げました。(1)条約の戦略計画で取り決めたような多国間環境協定が実施されていない。(2)条約を実施しないと湿地の状態は悪化する。(3)実施を妨げる優先要因(経済成長など)がある。
デイビッドソンさんは、現在の危機的な状況をNGOが社会に広く訴えていくこと、特にブルーカーボンなど気候変動との関連は重要であり、他の分野と連携していくことの重要性を強調しました。
デイビッドソンさんの講演
■環境省、内外NGOからの報告
環境省の荒牧まりささんは、「日本の湿地保全の取り組み」という報告で、日本における条約湿地の現状、登録要件などを説明しました。また、自然再生推進法による再生地域の多くが湿地であることなどの紹介がありました。
豊かな球磨川をとりもどす会のつる詳子さんは「荒瀬ダムの撤去に見る球磨川と河口干潟の再生」という発表を行い、荒瀬ダムの撤去により河川や干潟の生態系が予想以上に急速に回復したこと、荒瀬ダムの上流や下流にあるダム・堰の影響で、回遊魚の回復には課題があることなどが報告されました。
キムさんからは「韓国4大河川自然性回復の過程」という発表がありました。4大河川事業による堰の建設は、湿地の消失やアオコの大発生などをもたらしました。しかし、政権交代後に事業の再評価が行われ、現在16個の堰のうち、3つの解体/部分解体、2つの常時開放が決定したそうです。
世界湿地ネットワーク(WWN)のルイーズ・ダフさんからはビデオレターで、「WWNはどのように締約国会議に働きかけたか」と題するラムサール条約COP13での活動報告がありました。開会式でのステートメント発表、世界の湿地の保全状況に関する調査結果の報告などが紹介されました。
日本国際湿地保全連合の名執芳博さんは「日本のNGOが湿地保全の実施に果たしてきた役割」と題して、1993年に釧路で開催されたCOP5以降のNGOの動きを振り返り、特にNGOが活躍した事例として、水田決議の採択や、中池見湿地、渡良瀬遊水地の条約登録などを挙げました。
パネルディスカッション
■パネルディスカッション
陣内共同代表と永井光弘共同代表の進行で「水の自然な流れを守るためのNGO行動計画」というテーマでの討議が行われ、4人のパネリストが発言しました。
デイビッドソンさんは、世界の湿地の急速な悪化を食い止めるための取り組みを早急に行っていく必要があることを訴えました。また、石木ダムの建設は時代錯誤であると意見を述べました。条約に関連してNGOが取り組むべきこととしては、政府が条約事務局に提出している「国別報告書」の内容から湿地の状況や問題点を把握することなどを挙げました。
つるさんはダム撤去で川の流れが戻っても人がいなくなっては成功したとは言えず、自然と共生した地域の再生を目指していくことが重要であると述べました。
キムさんは韓国の4大河川事業は公正に事業の再評価が行われている一方で、ナクトンガンの橋の建設計画では事業者自身が環境アセスを行うなどの問題点があるとし、市民による環境モニタリングの重要性を指摘しました。
名執さんは湿地の大切さを子供たちに伝えていくこともNGOの重要な役目であると述べました。また、決議の履行を高めるためのNGOの役割として、条約の関連文書を分かりやすく翻訳して普及することなどを提案しました。
ディスカッション終了後、堀良一理事が閉会のあいさつとしてシンポジウムの成果をまとめ、諫早湾干拓問題の現状などにも触れながら、ラムネットJの次の10年に向けての課題と展望を述べてシンポジウムは終了しました。
(ラムネットJ事務局)
(ラムネットJニュースレターVol.37より転載)
2019年11月18日掲載