原発に頼らない町作りを目指して~「奇跡の海 上関」を未来の子供たちへ~
上関の自然を守る会共同代表 高島美登里
上関原発計画をめぐっては、3・11福島原発事故を受けて、許可権者である山口県知事の要請を受け、埋め立て工事が中断しました。本来ならそのまま公有水面埋め立て免許は失効するはずでした。ところが中国電力は失効寸前に延長申請を提出し、山口県は判断を5年も延ばした挙げ句、2016年8月に延長許可を与えました。しかも、「国のエネルギー政策で新規立地が明確になるまでは工事に着手しないよう」依頼するという、事業者の時間稼ぎに道を開いているとしか思えない内容でした。
そして2019年7月の再延長許可です。
今回は埋め立て工事の竣工期限を本来の3年から原子炉設置許可申請のためのボーリング調査期間6か月を加えたものにするという、看過できない問題点を含んでいました。それというのもボーリング調査は埋め立て工事ではないので、中国電力は国のエネルギー政策いかんにかかわらず直ちに調査(工事)に着手できるのです。
上関原発建設予定地の田ノ浦湾(右が筆者)
ボーリング予定地点で発見されたナメグジウオ
私たちはボーリング調査(工事)による田ノ浦湾の生態系へのダメージを検証すべくナメクジウオ(ヒガシナメクジウオ)調査に着手しました。するとどうでしょう! 田ノ浦湾内9か所のうち、ボーリング予定地点にもっとも高密度で生息していたのです!! 私たちにはナメクジウオが「僕たちの生命を助けて!!」と叫んでいるように聞こえました。直ちに記者会見を開き、県内マスコミ各社が報道しました。山口県へは免許の取り消し、中国電力にはボーリング調査の中止を求める申し入れを行いました。
相手は聞く耳持たずの回答に終始しましたが、社長が記者会見の中で「工事の安全」だけでなく「環境保全に万全を期す」と述べたのを見ると、一定程度効果があったと思います。
しかし、11月8日、祝島を中心とする地元団体や労働団体、市民団体などの反対にもかかわらず、中国電力はボーリング調査準備工事に着手しました。福島第一原発事故以降、静かだった予定地田ノ浦に緊迫した空気が流れました。祝島からは連日監視の漁船10数隻が対峙し、海岸では労働団体、市民グループ、上関の自然を守る会などが座り込み抗議行動を行いました。12月16日、中国電力は悪天候を理由に調査(工事)の中断を発表し、攻防は年度明けに持ち越されました。しかし条件が揃えば調査(工事)再開を明言しており予断は許せません。
アマツバメ
カンムリウミスズメ
上関海域は1960年代に瀬戸内海全域で自然破壊が進む中、最後に残された生物多様性のホットスポットです。カンムリウミスズメ、スナメリなどに加え、最近の調査でアマツバメ、クロサギ(山口県準絶滅危惧種)の繁殖やオヒキコウモリ(環境省絶滅危惧Ⅱ類)の周年生息など新たな知見が増えています。
2019年に改定された県のレッドデータブックでも繁殖地や生息地として「上関」と明記される種が6種も増えました。
この豊かな自然に育まれ、町の人々は漁業や農業など一次産業を中心に暮らしを営んできました。原発問題の根底には国の政策による一次産業の衰退、過疎という深刻な経済問題が潜んでいます。この根本問題の解決なしに原発計画を中止に追い込むことはできません。原発問題による対立を乗り越え、自然を活かした町作りを具体化すべく、2017年に漁業者と連携し「上関ネイチャープロジェクト」を結成しました。鮮魚の産直やアカモクの商品化、体験型宿泊施設「マルゴト」の開設など新たな取り組みを始めています。中国電力が原発計画と共に持ち込んだのは「一時産業は衰退する。町はダメになる」という自己否定と住民の分断でした。最近、国内外の訪問客に刺激を受け「ここは何もない所」と言っていた方たちが「確かに自然は豊かだよね!」と誇らしげに言うようになり、故郷への誇りと愛情を取り戻しつつあります。
持続可能な地域作りを加速させるため、日本自然保護協会などの支援を受け海洋保護区登録を視野に活動しています。上関原発計画を中止させ「奇跡の海」を未来の子供たちに残すため、人と生き物の共存を目指して頑張ります。
(ラムネットJニュースレターVol.39より転載)
2020年06月24日掲載