普天間飛行場代替施設建設事業「計画概要変更承認申請書」にかかる意見書
ラムサール・ネットワーク日本は、辺野古の普天間飛行場代替施設建設事業における計画概要変更承認申請について、2020年9月25日、下記の意見書を沖縄県に提出しました。
2020年9月25日
沖縄県知事 玉城デニー殿
特定非営利活動法人
ラムサール・ネットワーク日本
共同代表 上野山雅子、金井裕、
陣内隆之、高橋久、永井光弘
普天間飛行場代替施設建設事業「計画概要変更承認申請書」にかかる意見書
ラムサール・ネットワーク日本は、辺野古・大浦湾の生物多様性豊かな自然環境の保全に取り組んでいる立場から、以下の意見を述べる。
今回の申請においての第一の問題は、これまでの工事や作業の影響が科学的に検証されていないことである。大型のコンクリートブロックが300個近く海域に沈められ、複数の護岸が建設されたことによる海流の変化、問題の多い方法を用いたサンゴや海草の移植、貝類や甲殻類の移動など、これまで進められてきたことが生態系に及ぼしてきた影響が検証されていない。また水質の劣化や騒音の影響など、これまで継続的に海の生き物へ与えてきたストレスの累積的影響が考慮されていない。例えば、水の濁り自体は低濃度であっても、その影響が累積することにより、サンゴやジュゴンなどの生物の生存に影響が及ぶということが全く考慮されていない。さらには、日々土砂が投入されている海草藻場などの直接的な損失に関しても検証されていない。これらの工事や作業により、陸から海への水の自然な流れが変化したこと、今後どのように変化するかの予測などについて記載がなく、科学的な検証が十分であったとは到底言えない。
なかでも特筆すべきは、絶滅危惧種のジュゴンに対する環境保全措置の不備についての検証がないことである。事業開始後に工事現場付近に生息していた2頭のジュゴンは行方不明になったが、それ自体が起こってはならないことである。加えて、今年2月から計198回に及び工事現場付近の2か所においてジュゴンの鳴音らしき音が記録されているものの、沖縄防衛局の環境監視等委員会の専門家が「ジュゴンである可能性が高い」と述べる一方で、事業者は人工物が風の影響を受けて出す音である可能性も検討しており、いまだに結論は出ていない。記録された音がジュゴンであってもなくても環境保全措置が機能していなかったことに変わりはなく、またこれについて言及のない本申請書は不十分である。
第二の問題は、埋め立て土砂の調達予定地である。今回の申請では、当初は予定になかった八重山諸島などの離島からの土砂調達の可能性についても検討されている。
土砂の移動に伴う問題の第一は、外来種侵入のリスクが増えることである。2016年に世界最大の自然保護団体であるIUCNから日本政府に出された勧告では、「明確な生物地理学的な区域を超えた物資の移動は外来種の侵入のリスクを高める」ことに注意するようにと書かれている。沖縄県は県外からの土砂の移動を埋め立て土砂条例にて規制しているが、「県境」は人間の都合で作られているものである。事業者が八重山諸島や南大東島などから調達すれば県条例の対象からは免れるかもしれないが、沖縄島とは異なる自然を持つ島々からの調達は外来種侵入のリスクを高めるものである。
そして、土砂移動に伴う第二の問題は、土砂採取地の自然破壊である。1つ1つの採石場の規模は環境アセスメントにかける規模ではないこと、そして採石業者が環境破壊の責任を取ることとされているため、大量の土砂を取られる場所への影響を考慮しなくても工事は進められることになる。沖縄の脆弱な島嶼生態系への影響は甚大であると考える。
さらには、今回の申請には軟弱地盤をどのように改良するのか工法など詳細が書かれていない。世界で前例のない工事であり7万本以上となる大量の砂杭を用いて改良すると報道されていたが、本申請書には杭の規模も本数も工程も記載がない。
なお、埋立対象はいわゆるブルーカーボン生態系にあたり、日本も批准するラムサール条約の締約国会議決議13.14では、これに致命的な影響を与える衝撃は回避・最小化・緩和すべきこと、温室効果ガス排出削減へつなげることが奨励されている(パラグラフ12e)。
また、埋立対象はいわゆる潮間帯湿地にもあたり、決議13.20において、社会経済的・文化的重要性が指摘されるとともに、その生態学的サービス維持が保障できる十分なアセスメントが行われるまでの予防的策として干潟の改変は再考するよう奨励されている(パラグラフ11と46)。
県としても、これらが国際的な約束であることを念頭に、辺野古・大浦湾の保全を進めることを求める。
以上により、告示・縦覧されている計画概要変更承認申請書には多くの不備があり、沖縄県知事には本申請を不承認とすべきである。
2020年09月26日掲載