対馬・湿地を維持してツシマヤマネコを守る〜佐護ヤマネコ稲作研究会の取り組みについて〜
佐護ヤマネコ稲作研究会 吉野 元
長崎県にある対馬は、九州本土と朝鮮半島の間に位置する国境の島です。南北に70kmほどと長く、北方領土を除くと国内では佐渡島、奄美大島に次ぐ面積を誇ります。鳥の渡りのルート上に位置するため、繁殖地と越冬地を結ぶ中継地点となっており、約400種近くの鳥が観察されています。また、朝鮮半島と日本本土から分離して島が成り立ったため、生息する生物も独特で、貴重な生き物の宝庫になっています。
田んぼに現れたツシマヤマネコ
対馬北西部に位置する佐護地区は対馬で最大の水田地帯であり、コウノトリやマナヅルといった大型鳥類の飛来や絶滅危惧種であるツシマヤマネコの生息が確認されています。「ヤマネコ」といえば名前の通り山奥に住んでいると思われがちですが、対馬ではヤマネコのことを「田ねこ」と呼ぶほどに、田んぼ周辺にヤマネコがよく現れます。田んぼはカエルやヘビ、鳥を餌とするヤマネコにとって絶好の狩場であり、子育ての場となります。
佐護地区では稲作を続ける農家が減りつつある現状の中、「お米に価値をつけ、きちんと作っていきたい」と同じ気持ちを持った同志で「佐護ヤマネコ稲作研究会」が立ち上がりました。佐護ヤマネコ稲作研究会では微生物による種子消毒や農薬をできる限り使わない栽培、生き物調査を行うなど、ヤマネコを含む生き物と共生するためのさまざまな工夫をして米づくりをしています。こうした取り組みに付加価値をつけてブランド化し、「佐護ツシマヤマネコ米」として販売を始めました。
ツシマヤマネコが生息し、渡り鳥が飛来する佐護地区において、地域住民の米づくりを通じた田んぼ(湿地)の利用は大変重要で、野生生物の保護と湿地環境の維持につながっています。
今後も、ヤマネコも鳥も消費者も生産者も、みんながうれしいお米づくりに取り組み、対馬の生物たちの貴重な生息環境と人の暮らしとの共生を目指して活動を続けていきます。
佐護ツシマヤマネコ米と認定田
(写真はいずれも佐護ヤマネコ稲作研究会提供)
(ラムネットJニュースレターVol.40より転載)
2020年09月06日掲載