手渡された「泡瀬干潟や、干潟と共に生きる暮らしを守るバトン」─ウミエラ館閉館、山下博由さん逝くコロナ禍の春に─
沖縄国際大学講師/ラムネットJ理事 砂川かおり
沖縄市の泡瀬干潟の魅力を伝え、保全活動の拠点であった博物館カフェ「ウミエラ館」が、去る2020年4月12日に、その活動の歴史に幕を閉じた。2011年4月のオープン以来、3000人以上が来館。過去9年間で、渡り鳥やウミエラを初めとする干潟の生き物観察会、県内外から講師を迎え、渡り鳥、貝、サンゴ、蝶等に関する各種講演会、コンサート、人形劇等のイベントも35回開催し、イベントには約1000人が参加した。まさに平和学習や環境学習・保全活動の拠点であった。
4月12日に、泡瀬干潟を守る連絡会主催の観察会「湿地のグリーンウェイブ2020 IN 泡瀬干潟」が開催された。観察会には、30名程が参加し、クビレミドロを始めとする春の干潟の生物の観察を楽しんだ。そして、観察会で、ささやかな花束贈呈式を行い、ウミエラ館閉館を惜しんだ。また、前日に逝去された、泡瀬干潟の希少な貝を次々に発見し、ニライカナイゴウナ(新種)等のユニークな貝の命名をしてこられた貝類多様性研究所所長の山下博由さんを偲んだ。
大学の夏季集中講座で説明してくださったウミエラ館の屋良朝敏館長(2019年9月4日)
貝のお話し会講師の山下博由さん(2017年7月27日、ウミエラ館ホームページより)
屋良館長は、ウミエラ館閉館後も、干潟を歩いて自然を見つめ直し、泡瀬干潟の「ラムサール条約」登録を目指して、干潟の大切さを発信していきたいとその決意を新たにしている。屋良さんの活動はこれからも続いていくが、ひとまずこの9年間のウミエラ館の活動に対して、屋良館長、そして支えてくださった奥さまに心から感謝したい。
ウミエラ館には、「博物館カフェ」の顔である、海の生き物に関する写真や貝の展示があった。これからの環境教育活動に役立てるという目的で、筆者が勤める沖縄国際大学経済学部地域環境政策学科が管理する実験室で貝の標本や写真を所蔵することになり、引っ越し作業を終えた。今後は、地元の小中高校生や大学生への環境教育の教材として活用させていただく予定である。
一方で、中城湾港泡瀬地区埋立開発事業では、環境影響評価書における環境保全措置として「自然の学習・観察視察(環境教育の場・人と自然との触れ合い活動の場)の整備」を行うこととなっており、「中城湾港泡瀬地区環境保全・創造検討委員会」での議論を経て、沖縄県土木建築部港湾課が、人工島(潮乃森)内に干潟域と一体となった野鳥園を整備し、沖縄県・沖縄市が維持管理をする予定になっている。また、干潟生物や野鳥等を対象とした環境学習の取り組みも進められ、試験運用(野鳥観察会、サンゴ観察会等)およびワークショップが沖縄市の自治会や漁協、NPO等が参加して行われてきた。地域参加型かつ環境にも配慮した運営形態(人材・資金・施設)の確立が課題となっている。このような中で、地域の人々や環境NGOが守ってきた泡瀬干潟をラムサール条約湿地にすることで、製塩業で栄えた干潟の歴史・文化や国際的に価値の高い自然環境を継承し、誇りを持った地域づくりにつなげることが期待できる。
ウミエラ館や山下さんたちの思いをバトンとして受け継ぎながら、泡瀬干潟を保全し、干潟とつながり、人も生き物も元気いっぱいの地域を子供たちや学生さんたちとも一緒に創っていきたい。
(ラムネットJニュースレターVol.40より転載)
2020年09月06日掲載