最近の渡良瀬遊水地
ムサール湿地ネットわたらせ 楠 通昭
渡良瀬遊水地は、1990年から始まった市民団体のラムサール条約登録活動が実を結び、初めて治水と湿地保全・再生を両立させた河川法を法的担保として、2012年7月にラムサール条約湿地となりました。東京からわずか60kmの群馬・栃木・茨城・埼玉の4県4市2町の境界にあり、植物、鳥類、昆虫は種類も豊富で絶滅危惧種も数多く生きものの宝庫です。
当会・小山市共催「ヤナギ・セイダカアワダチソウ除去作戦」(2017年)
●最近の状況や活動とコウノトリ
第2調節池(約500ha)の治水と湿地保全・再生を行う国交省の「渡良瀬遊水地湿地保全・再生基本計画」が東日本大震災の影響で予想以上に早く進み、掘削地(水面とほぼ同じ面積)が2012年の2・8haから2020年9月で84・4haと約30倍に増え、大小さまざまな池が出現しました。
掘削と同時に、一部の市民団体が「ヤナギ・セイダカアワダチソウ除去作戦」を始め、2014年6月からは官民共同で実施することになりました。それ以降、年4~5回、毎回500~600人が参加して遊水地に親しむ大イベントに発展しています。
また小学生を対象に、遊水地の周りの自然の中で遊び、子どもたちの生きる力と地域を大切にする心を育成するために始まった「渡良瀬子ども自然塾」は7年目になりました。すっかり定着し参加者も20人以上と運営スタッフが不足気味です。やっぱり人気一番は広いヨシ原での秘密基地作りでしょうか? 子どもたちの満足そうな顔を見ると疲れたとは言えませんね!
条約登録10年後にはコウノトリを!と願っていたのですが、何と2014年10月にもう初飛来し、その後は度々、遊水地とその周辺農地(冬水たんぼ、減農薬田んぼ)で目撃されるようになりました。2018年2月に野田市で放鳥された「ひかる」(雄、2歳)が定着するようになり、2020年3月に徳島県鳴門市で自然繁殖した「歌」(雌、1・5歳)が再飛来して、うれしいことにお嫁さんになりました。ついに6月に2羽のひなが誕生し8月に順調に巣立ちしました。東日本では自然繁殖は無論、最年少の2歳での産卵・孵化は初めての快挙でした。
しかし9月に母親になった「歌」が脚を骨折し、その後、死亡する悲しい出来事もありました。コウノトリは一生連れ添う鳥だとのことで心配したのですが、つい最近、野田市生れの「レイ」(雌、1歳)が新しいお嫁さんになり、3月末にひなが誕生しました。
コウノトリの「ひかる」「歌」と2羽のひな(2020年)
当選後、初登庁した浅野新市長(2020年7月31日)
●わたらせ市民フォーラムの提言
条約登録後6年間、関連する4県4市2町の渡良瀬遊水地保全・利活用協議会でそれぞれ単独の取り組みは進みましたが、全体としてひとつの渡良瀬遊水地のワイズユースの実現については明確な方向性を示せませんでした。そこで登録7周年に向けて民間有志が腰を据えて意見交換する「わたらせ市民フォーラム」を1年半で関連市町において合計8回開催し『ラムサール条約湿地登録7周年記念/渡良瀬遊水地の将来に向けた提言「ワイズユースで拓く渡良瀬遊水地の未来」』(15項目)をまとめて公表しました。2019年6月には4市2町の首長を招いてシンポジウムを開催し、連携を強化していきたいとの発言を得ることができました。これをきっかけにして更に渡良瀬遊水地のワイズユースを実現していくことが私たちの使命です。
●小山市長選で浅野正富さんが当選
一昨年末、小山市のボランティア活動拠点施設の指定管理者の選定に不正があったとして「小山市長に指定撤回を求める全国2万人署名を呼びかける会」を立ち上げ、有志代表を私が、事務局長をラムネットJの理事でもある浅野正富さんが担当しました。1か月間の街頭署名活動を中心に全国版署名活動を展開して署名簿を提出し、それを無視した市長宛てに「あなたは市長の任にあらず!」の声明文を発しました。さらに7月に予定されていた市長選挙で本命の候補者が5月中旬に辞退したため、最後は候補者を人選していた浅野さん自身が小山市に対する将来への危機感と自分の責任感から市長選挙に出馬することになりました。
6選目をめざす現市長との戦いは「象とアリの戦い」になるのではとの予測もありましたが、投票率の掘り起こし、多選批判、知名度浸透と市民団体の草の根運動によって、浅野さんは見事に約7000票の大差で当選を果たしました。長年の弁護士としての活動と共に、渡良瀬遊水地の保全活動・実績も大きく影響したと思われます。現在、公約のひとつ「環境田園都市・小山」のまち作りで、提言書の渡良瀬遊水地のワイズユースの基本「魅力と価値」を4市2町の官民が共有して確実に次世代に引き継ぐよう、行政の一翼を担われています。
●渡良瀬遊水地のこれから
ラムサール条約湿地になって以降、関連市町の各種広報・イベント開催や行事の増加、そしてコウノトリの飛来・定住・子育てなどで渡良瀬遊水地もずいぶん知られるようになりました。今後は地域社会と市民団体が協力し、地道な活動を通じて生物多様性をさらに向上させ、自然と調和した地域として渡良瀬遊水地を後世につないでいきます。
(ラムネットJニュースレターVol.43より転載)
2021年05月22日掲載