湿地巡り:伊豆沼・内沼(宮城県)
(公財)宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団 嶋田哲郎
伊豆沼・内沼は宮城県北部に位置し、登米市と栗原市にまたがる面積559haの沼です。水深は深いところでも1・6mと浅く、ハスやヒシ、アサザなどの水生植物のほか、多くの魚類や昆虫類などが生息しています。マガンとオオハクチョウは沼を代表する鳥類で、マガンは10万羽あまりが越冬しています(写真1)。
ラムサール条約の大きな柱は、保全、交流・学習、ワイズユースの3つです。これらのうち最も重要なことは、保全です。それによって豊かな自然が維持・継承されることが、交流・学習、ワイズユースの基盤となるからです。保全の根幹にあるのが研究です。研究と保全によって順応的管理をすすめていく必要があります。
伊豆沼・内沼では、2008年に地域住民や団体、専門家、行政からなる伊豆沼・内沼自然再生協議会が発足しました。生物多様性の回復や水質改善など、多くの議論にもとづく将来像を目指して、水生植物の復元やオオクチバスの駆除など、長年にわたって順応的管理による保全対策を行ってきました。
マガンの朝の飛び立ち
バス・バスターズによる稚魚すくい
財団には鳥や魚などそれぞれの分野で博士号をもつ職員が3人います。私たちは東京大学や北海道大学などの多くの研究機関と共同研究を行い、確かな保全を行うための知見を集約してきました。多くの成果のひとつはオオクチバスの駆除です。2003年以降、ボランティア団体「バス・バスターズ」を中心とした駆除活動によって、現在オオクチバスは大きく減少し、モツゴなどの在来魚の回復が始まり、ゼニタナゴの繁殖も見られるようになりました(写真2)。池干しのできない伊豆沼・内沼のような大規模湖沼で、オオクチバスを減らし、絶滅危惧ⅠA類に指定されている、ゼニタナゴのような希少魚の復活に成功したのは、日本で初めてのことです。
もうひとつの成果は、水面を広く覆い、水中の酸欠や水質悪化の原因となるハスの管理です。ここでは、船の動力を用いてハス刈りを行う方法やGPSを用いた自律航行によるハス刈りロボットボートの開発などによって、ハスの管理を行うことができるようになりました。オオクチバス駆除やロボットボートの開発、いずれの成果も国際学術誌に掲載されています。
研究による確かな保全をすすめることで、よりよい伊豆沼・内沼を次世代につなげたいと思います。
(ラムネットJニュースレターVol.44より転載)
2021年08月12日掲載