諫早湾干拓問題:有明訴訟の和解協議が始まりました
よみがえれ!有明訴訟弁護団/ラムネットJ監事 堀 良一
■有明訴訟での和解協議の経緯
本年4月28日に福岡高裁が「和解協議に関する考え方」を発表しました。いよいよ、待ちに待ったよみがえれ!有明訴訟の和解協議が始まりました。
これまでも、長崎地裁や福岡高裁で和解協議が試みられましたが、いずれも失敗しています。失敗の原因は、和解協議の結論が最初から示されていたからです。有明海沿岸の漁業者団体が運用する100億円規模の基金を創設することで、漁業者側の開門の願いを抑え込もうとする結論が示され、漁業者側がこれを飲むか飲まないかということに議論が終始しました。開門と開門調査を悲願とする漁民側が飲めないのは当然です。
これに対し、漁業者側は、以前から「農・漁・防災共存の開門」のスローガンを掲げ、開門判決が確定してからも、いきなり開門確定判決が命じた潮受堤防排水門の全開放を求めるのではなく、開門の悪影響を不安視する開門阻止派に配慮して、双方の利害を考慮した調整案を提案してきました。漁民側が求めるのは開門と開門調査で、開門阻止派の関心は開門に伴う悪影響のおそれです。そこで、実績のある短期開門調査レベルの小規模な開門から始め、開門調査を行いつつ、悪影響の可能性を見極めながら、必要な対策を講じて開門阻止派の不安を払拭する。こうした段階を踏んで、少しずつ本格的な開門に向かい、開門阻止派との調整を図る、という利害調整を行いながらの段階的開門による和解案です。
諫早湾の北部排水門と潮受堤防(写真は全て有明海漁民・市民ネットワーク提供)
福岡高裁の前に集まった漁業者側原告・弁護団と支援者(2月19日)。現在、福岡高裁では国が漁業者側に開門を強制しないよう求めた請求異議訴訟の差し戻し審が行われています
■福岡高裁の和解協議案の内容
今回、福岡高裁が発表した「和解協議に関する考え方」は、初めて、開門・非開門の前提をおかない本格的な利害調整のための和解協議を提案しています。
しかも、この「和解協議に関する考え方」のすばらしさは、それだけにとどまりません。第1に、訴訟を含めた紛争全体の統一的・総合的・抜本的解決および将来に向けての確固とした方策の必要性と可能性を意識しています。第2に、当事者を訴訟当事者のみに限定せず、幅広い関係者の意向や意見を踏まえることが示されています。第3に、今日の事態を招いた国の特別の役割・責任を踏まえ、国の、「これまで以上の尽力が不可欠」、「国の主体的かつ積極的な関与を強く期待する」とはっきり述べています。第4に、有明海を「国民的資産」と位置づけ、和解協議の意義を、「有明海の周辺に居住し、あるいは同地域と関連を有する全ての人々のために、地域の対立や分断を解消して将来にわたるより良き方向性を得る」と述べています。これらの指摘は、全くそのとおり、と思わず拍手したくなります。
カモによる農作物の食害が問題となっている諫早湾の干拓農地。黒い旗のような「鳥よけ」が立ち並んでいます
■高裁の考え方への支持が広がる
弁護団は、「和解協議に関する考え方」が発表されるまで、5回にわたって上申書を提出し、そのなかで漁業者や地域の住民団体、市民団体、研究者団体、自然保護団体などの声を紹介し、真の和解協議の必要性を訴えてきました。今回の裁判所の発表の背景には、地元はもとより全国からの世論があります。
「和解協議に関する考え方」発表以後は、裁判所の考え方を支持する動きが続出しています。ラムネットJも5月17日に「諫早湾開門をめぐる和解協議に期待する」と題した声明を発表しました(1)。こうした動きによって、裁判所は励まされ、国は追い詰められています。国は「和解協議に関する考え方」が発表された当初は、非開門の基金案による和解がベストなどと国会で答弁したりしていましたが、最近では「訴訟の手続に従って適切かつ誠実に対応する」と答弁をトーンダウンしています。
願ってもないチャンスが訪れました。有明海沿岸漁民からの自発的な署名運動も開始されています(2)。真の和解協議を実現し、話し合いによる開門と開門調査を実現するために、力を合わせましょう。
(ラムネットJニュースレターVol.44より転載)
2021年08月12日掲載