第4回日韓湿地フォーラムに参加して
〜ソウル周辺の湿地の視察を中心に〜
2009年7月4日(土)〜5日(日)にかけて、第4回日韓湿地フォーラムがソウル市郊外のイルサンで行われました。フォーラムに先駆けて行われたエクスカーションでは、インチョン(仁川)沿岸の湿地開発やキョンイン運河を視察(案内:インチョン・グリーン・コリアのチャン・ジョングさん)。桁外れの開発スケールに、度肝を抜かれました。フォーラム内での報告と合わせて、韓国における開発の一端をレポートします。
1. インチョン沿岸の湿地開発
もともとインチョン周辺の海岸線は広大な干潟にあふれていましたが、チョンナ、ヨンジョンド、ソンドと3つの自由貿易ゾーンが設けられ、近年の埋め立てラッシュで干潟が大きく失われてきています。自由貿易ゾーンの総面積は200平方km(ソウル市の1/3に相当)。今回はその中の一つ、ソンド地区を訪問しました。
埋め立て計画は11区におよび、既にほとんどの区域で埋め立てが終わり、産業団地や各種施設が建てられていました。かつての干潟に高層ビルが立ち並ぶ様には圧倒されました。
そんな埋め立て地の一角に、ポッカリと残された貯水池があります。周辺の工業団地などから汚水が流れ込み、最高に水質の悪い環境です。この貯水池の真ん中に人工島があるのですが、何と!この劣悪な環境の孤島でクロツラヘラサギの繁殖が確認されたというのです。東アジアのみに生息し全体でも2009年一斉国内調査で2041羽と絶滅危惧種に指定されているクロツラヘラサギですが、この孤島では毎年数十羽が休憩に利用しているとか。そしてこの春初めて10羽の繁殖が確認されたのだそうです。彼らは、隣接する第11区の干潟を往来し餌場としています。
ソンド地区の貯水池と人工島
人工島に集まったクロツラヘラサギ
11区埋め立て予定地の総面積は約700ha(約7平方km)。ソンド地区で最後に残された干潟です。ここを178種、1万8000〜4万羽の野鳥が休憩地として利用し、中にはズグロカモメやカラシラサギ、ハヤブサなどもいるそうです。開発が進むカンファド(江華島)から逃れてきた個体も多く、博多湾でリングをつけた鳥が確認されたりもしています。埋め立ての目的は先端産業団地の建設や海外有名大学の誘致などで、埋め立てに利用する土砂はインチョン港の航路浚渫やキョンイン運河(後述)工事で山を削ったりして出るものだそうです。当然、この干潟が埋め立てられれば、クロツラヘラサギをはじめとした多くの野鳥は生息地を失うことになります。地元NGOは「既に多くを開発してきており、もう十分ではないか」と主張していますが、インチョン市は計画撤回に応じていません。
周辺では8月から始まるインチョン国際都市博の準備のため、多くの工事トラックが往来。干潟を埋め立てておいて、グリーンホールやエコパークと命名された施設を作るとか、失笑ものでした。全体を俯瞰するためにと訪れた干潟タワーもブラックジョークでした。干潟を埋めたところに高層30階の干潟タワーを作るとか、その中にEAAFP(東アジアオーストラリアフライウェイパートナーシップ)の事務所があるとか・・・。
ソンド11区に広がる干潟
干潟タワーから眺める高層ビル群
フォーラムでは、インチョン湿地ネットワークより、興味深い発表がありました。クロツラヘラサギのモニタリング調査です。貯水池を利用する個体に名前を付けて、毎日丁寧に観察した結果はとても貴重です。その一端が「K59の屈辱」とタイトルした動画としてHPにアップされています。(ホームページ「クロツラヘラサギ島のカフェ」)
貯水池脇のモニタリング用テント周辺に飾られた地域の子供たちが描いた絵や、子供たちの教育のためのクロツラヘラサギ手作りマスコットキット、軽快なポップス調で「干潟を埋めないで!」と歌う子供たちなど、地域と密着した活動ができていることが感じられて勉強になりました。ウェットランドフォーラムの松本悟さんが昨年のラムサール会議(COP10)で配っていたクロツラヘラサギの絵物語が、韓国語でリニューアルされているのにも驚きました^^)クロツラヘラサギの保護に取り組む日本のNGOは、ぜひ現地に行って交流を深めてほしいと思います。
この他にも、カンファドとヨンジョンドを堤防で結び、その潮力差で発電する潮力発電事業が検討されているとか。沿岸の干潟を根こそぎ奪ってしまう無謀な計画が本気で調査されていることに、韓国イ・ミョンバク政権の空恐ろしさを感じます。
クロツラヘラサギの手作りマスコット
子どもたちが描いた絵を展示
続いて、私たちは、ソウルとインチョンを結ぶキョンイン運河の工事現場へと向かいました。
この運河は、韓国四大河川の一つハンガン(漢江)の西側・プチョン(富川)市周辺で洪水が頻繁に起こることから、ハンガンの水を分けて流そうということで始まった計画でした。いわば治水対策を目的とした放水路で、元々は山や平地だったところを切り開き、着工から10年が経過しています。問題はそうした放水路計画が、いつの間にか大運河へと変身してしまっていることです。
計画変更の工事が2009年3月になし崩し的に始まり、川幅20mの放水路だったはずが60mへと広げられ、5000トン級の船舶を通すために水深も6mに掘り下げられられています。これまでに海側から13.3kmが掘り進められており、残り4.4kmでハンガンとつながります。そして、ハンガンも広げて大型船舶が通れるようにするということです。治水のための放水路ということで、平常は水量が制限されなければならないはずでしたが、船舶を通すために水が満たされ、放水路本来の機能が果たせないという詐欺にあったような事態になっています。
一度はお蔵入りになった四大河川の運河計画でしたが、建設会社出身のイ・ミョンバク政権は、河川環境再生事業と称して22兆ウォンの事業費を投ずる大プロジェクト計画を6月8日に発表しました。ハンガン(漢江)、ナクトンガン(洛東江)、クムガン(錦江)、ヨンサンガン(栄山江)の四大河川を導水路でつなぎ、水を融通し合って、水資源の確保や治水防災、水質改善など河川環境を守りきるという建前のプロジェクト。しかし、船舶が通れるように両岸を整備し、高さ4m〜13.2mにわたる堰を20個作り、水深を6m以上にするため川底を5.7億立方mも浚渫し、377kmの堤防を築くという、中止になった大運河計画の焼き直しと言える計画です。
10月には着工かという切迫した状況なのですが、この大プロジェクトによる生態系の破壊は甚大です。四大河川を中心に発達した韓国の内陸湿地のほとんどが喪失し、渡り鳥の国際的移動にも致命的な脅威となります。
私たちが訪れたキョンイン運河は事業費2兆2000億ウォンと4大河川整備事業の1/10ですが、ここだけでも様々な問題が指摘されています。
- 既存の高速道路や鉄道と並行して作られていますが、ソウルまで高速道路なら40分で行ける行程なのに、わざわざ船で3〜4時間もかける利用者はいない。
- 海に出る際にも、江華島の干潟にぶつかるので、海洋部の航路浚渫が必要。
- 干満差が大きく、干潮時に船が通れるのか。
- 冬季には川の水の凍結が心配されるが、凍結したら船は航行できない。
- 川底を深く掘るので、地下水の水位が低下して地盤沈下を起こす。周辺の農家に大きな影響。
- 船舶を通すには、ハンガンの自然保護区域でも河川拡幅工事が必要となる。
工事が進むキョンイン運河
第4回日韓湿地フォーラムの会場内
こうしたとんでもない大プロジェクトに対して、市民社会団体、学界、宗教界、政党など400の団体で構成する委員会で反対運動を展開するとともに、地域ごとの対話集会も行われているそうです。しかし、まだまだ事業を止めるまでには至らず、更なる世論の盛り上げが急務となっています。
日韓湿地フォーラムの仲間である韓国環境運動連合(KFEM)のマ・ヨンウンさんから、四大河川整備事業反対の意見書を主要メンバーに届けるキャンペーンへの協力要請が来ています。ラムサール・ネットワーク日本では、このキャンペーンに全面協力し、事業中止につながるよう支援しています。皆さまのご協力をよろしくお願いします。
●韓国環境運動連合の韓国四大河川整備事業反対署名サイト
2009年08月18日掲載