湿地巡り:宮島沼(北海道)
宮島沼水鳥・湿地センター 牛山克巳
宮島沼は、北海道中央部、石狩平野の農村地帯にある小さな沼です。毎年春と秋には、数千羽のハクチョウやカモ類に加え、最大7万羽にもなるマガンが集結する小さな沼です。渡りの時期、湖面を埋め尽くすマガンは、毎朝大音響とともに一斉に飛び立ち、周辺の田んぼに向かいます。田んぼの落ちモミは、マガンにとって長旅のエネルギー源となる重要な食物。道内有数の米どころである周辺水田と、安心して休める小さな沼が、マガンを初めとする多くの渡り鳥の生活を支えているのです。
湖面を埋め尽くす水鳥や目前で乱舞するマガンを見学に、多くの市民が宮島沼に訪れます。しかし、着実に、そして勢いを増しながら宮島沼に訪れている危機に気づかれる人は少ないのかもしれません。近年、小さな沼がさらに小さくなっているのです。50年後には宮島沼の水面が完全に消失するとさえ試算されました。また、富栄養化も進み、水質は過栄養状態にあります。すでに植生は大きく変化してしまいましたが、マガンなど水鳥に悪影響が及ぶ日も近いのかもしれません。
宮島沼の水環境の悪化には、乾田化による地下水位の低下、農地からの余剰養分や土砂の流入など、周辺土地利用が大きく影響しています。それを逆手にとって始まったのが「ふゆみずたんぼin宮島沼」。隣接する田んぼを冬期湛水することで宮島沼の乾燥化を防げないだろうか? 宮島沼の富栄養化した水を田んぼに汲み入れ、浄化することはできないだろうか? 単純な発想から始まった取り組みですが、少しずつ成果をあげることができています。
宮島沼は、かつての国内最大の泥炭湿原「石狩湿原」の一部でした。石狩湿原の99%は農地化され姿を消しましたが、宮島沼はその貴重な残存湖沼といえます。周辺水田と一体化した湖沼の保全策が成功を収め、同様の課題を抱える石狩川流域湖沼群に広めることができれば、新しい石狩湿原復活の第一歩となるのではないかと期待しています。
(ラムネットJニュースレターVol.3から転載)
2010年02月07日掲載