危機に瀕する長島の自然
長島の自然を守る会 代表 高島美登里
■瀬戸内海の自然が豊かに残っている貴重な場所・・・長島
かつて美しい島々と渚に恵まれていた瀬戸内海は、高度経済成長期には干潟や海浜の埋め立て、海砂採取、海水の汚染などによりその姿を変え、人知れず多くの生き物が絶滅していきました。そんななかにあって、山口県上関町長島は開発をまぬがれたことで、透明度15mを超える澄み切った海と、75%も残る自然海岸(瀬戸内海平均は21.4%)が保たれ、多様な生き物が元気に暮らしていました。
皮肉なことに、豊かな生態系を保った貴重な自然が長島に在ることを私たちが知ることになった契機は、中国電力(本社:広島市)の上関原子力発電所建設計画でした。中国電力が海生生物の調査を依頼した研究者が、巻貝の進化をたどる上で重要なカクメイ科の貝「ヤシマイシン」近似種を長島田ノ浦で発見、6億年前の三葉虫がいた頃に栄えた腕足動物の仲間「カサシャミセン」が多数生息していることなども確認しました。世界的に貴重な貝類が数多く確認されたことで、海外の専門家も注目、「温帯地域では他に例のない多様性を持っている」と絶賛しました。1999年、『長島の自然を守る会』は、日本生態学会など各分野の専門家と長島を調査しその結果を人々に知らせ、守ることを目的に発足しました。
世界で一番小さなクジラの仲間である「スナメリ」は瀬戸内海の他の海域では激減していますが、長島周辺ではいまだに子育てをしていることをはじめ、調査するたびに発見がありました。2006年に確認された、日本海特産種で一属一種の海藻「スギモク」、2008年春には、世界のウミスズメ類の中でも最も絶滅が危惧される日本特産種「カンムリウミスズメ」という海鳥を長島周辺海域で確認しました。昨年9月に発行したガイドブック『危機に瀕する長島の自然~上関原発予定地および周辺の生きものたち~』に詳しく載せています。
ヤシマイシン近似種
スギモク
■上関原発建設で危惧される深刻な環境破壊
上関原発計画が浮上したのは1982年、推進が6割前後、反対が4割前後という構図が続いており、特に原発建設予定地の対岸3.5kmにある祝島の島民は9割以上が反対です。上関原発(137・3万kW 2基)が建つと、海水温より7℃も高い温排水を毎秒190トンも垂れ流します。しかもその中には、稚魚や魚の卵やプランクトンを殺してしまう次亜塩素酸ソーダという薬品が含まれます。長島は豊後水道から入ってきた黒潮が広島や岡山方面に流れ込む入り口にあるため、原発の温排水によって周辺海域の自然生態系が損なわれるのはもちろんのこと、その影響は瀬戸内海全体に及んでいくことが予想されます。もし、放射能漏れなど異常事態が起これば、閉鎖性水域である瀬戸内海は甚大な被害に見舞われます。上関原発計画は、上関町だけの問題ではなく、瀬戸内海全域に関わる重大問題なのです。
2008年秋、スナメリやカンムリウミスズメなどの野生生物を原告に、山口県を相手取り、埋立免許の取り消しを求める、『自然の権利』訴訟を起こしました。私たちは、生物多様性のホットスポットである長島の自然を、手つかずのまま未来の子供たちに残したいと考えています。
(写真:新井章吾、福田宏、飯田知彦)
カンムリウミスズメ
上関原発建設で埋め立てられる予定の長島・田ノ浦
(ラムネットJニュースレターVol.3より転載)
2010年02月14日掲載