ラムサール条約湿地候補地検討会に意見書を提出

 ラムサール・ネットワーク日本は、ラムサール条約湿地候補地検討会での登録基準の審議に関して、2010年7月21日に下記の意見書を提出しました。


2010年7月21日
環境省自然環境局野生生物課
  課 長  塚本瑞天  殿
ラムサール条約湿地候補地検討会
  座 長  辻井達一  殿

NPO法人ラムサール・ネットワーク日本
共同代表  花輪伸一
 同    柏木 実
 同    堀 良一

 ラムサール条約湿地候補地検討会に関する意見書

 現在、ラムサール条約湿地候補地検討会で、国際基準1〜9に基づく候補地の選定方法が議論されておりますが、平成22年6月25日に開催された平成22年度第1回検討会では、基準2の対象となる絶滅危惧種について、IUCN及び環境省のレッドリストでVU以上のものとするとの対応方針案が事務局から示され、基準2の鳥類の該当湿地として①個体数1%以上基準を超えているか②繁殖が確認されている湿地のリストが提出されました。しかし、委員からは、対応方針案と上記①②の要件が加わった理由に関して特段の意見もありませんでした。

平成21年度第2回検討会の結論
 平成21年度第2回の検討会では、基準2に関し、事務局から、IUCNの「絶滅寸前(CR)」、「絶滅危機(EN)」、「危急(VU)」のいずれかで、かつ環境省レッドリストの「絶滅危惧I類(CR+EN)」、「絶滅危惧IA類(CR)」、「絶滅危惧IB類(EN)」のいずれかを満たす種とすることで議論が求められましたが、委員からは、そもそもIUCNの情報を入れる必要があるのかと疑問が呈されたり、昆虫については環境省のレッドリストの方が現状に即しているとの指摘があった上で、より広く種をカバーするのであれば、IUCNも入れておくべきとして、IUCNかつ環境省のレッドリストではなくて、IUCNまたは環境省のレッドリストにすべきとの結論になったのであり、議事録概要も「IUCN「かつ」レッドデータブックではなく、IUCN「または」レッドデータブックに含まれる種とする。」とまとめられています。
 また、「ラムサール条約の国際的に重要な湿地のリストを将来的に拡充するための戦略的枠組み及びガイドライン」の添付文書E「戦略的枠組み用語集」の「地球規模で絶滅のおそれのある種」には、「IUCNの種の保存委員会の専門家グループまたはレッドデータブックにより、近絶滅種、絶滅危惧種、危急種のいずれかに分類されている種もしくは亜種をいう。多くの分類群の場合、地球全体の現況に対する知見は乏しく、それを反映して特に無脊椎動物については、IUCNのレッドデータリストの内容は不完全なだけでなく激しく変動することに注意されたい。つまり、「危急」「絶滅危惧」「近絶滅」という用語については、対象となる分類群の現況に関してその時点で得られる最善の科学的知見に照らして、各国のレベルで解釈すべきである。」とされています。

鳥類重要生息地の基準2に関する抽出基準について
 基準2による鳥類の重要生息地は、基準2をIUCN「及び」環境省レッドリストとして解釈を狭め、さらに①個体数1%以上基準を超えているか②繁殖が確認されているという別の基準をかぶせて抽出されています。しかし、これは絶滅のおそれのある種の保全に制限をかけることであり、また、上記用語集に記載のあるような趣旨も踏まえて、IUCNのレッドリストだけでなく、環境省のレッドリストに掲載されている絶滅危惧種も広く基準2の対象に含めようと導かれた、平成21年第2回検討会の結論にも反しています。絶滅の恐れのある種の存続を妨げるのは繁殖地のみにあるわけではなく、中継地にも、越冬地にもありえます。また、種の個体数の顕著な減少が問題であるとき、生息地の重要性は、個体数ではなく、過去を含めたその種の利用の仕方から判断すべきで、一般種と同じ全個体数の1%未満しか生息しないから、その場所は重要生息地でないとすることはできません。基準2の趣旨はあくまでも絶滅の恐れのある種の保全であり、趣旨に沿って抽出が行われなければなりません。

 このまま、何の議論もされずに、対応方針案通り決定されるならば、平成21年度第2回検討会での議論は一体何のためだったのか、正に検討会の存在意義が問われます。
 改めて、基準2に関する対応方針に関し、「ラムサール条約の国際的に重要な湿地のリストを将来的に拡充するための戦略的枠組み及びガイドライン」の添付文書E「戦略的枠組み用語集」の「地球規模で絶滅のおそれのある種」に記載された内容を踏まえ、検討会で検討委員の方々にしっかりご議論いただきますようお願い致します。

2010年07月23日掲載