湿地巡り:球磨川河口干潟(熊本県)
八代野鳥愛好会 高野 茂樹
球磨川河口干潟は、九州山脈から流れ出た球磨川が川辺川の清流を合わせて八代海に注ぐ河口に発達した干潟です。江戸時代後期の文書に河口の小島近くでハマグリ採りを楽しんでいる絵が残されている景勝の地です。この島は2009年に国指定名勝に登録されました。河口付近には1000haを超す干潟が残され、今も市民にとって大切な場所です。
干潟にはヤマトオサガニ、アナジャコなどの甲殻類、シマヘナタリ、ゴマフダマなどの巻貝類、ハマグリ、タイラギなどの二枚貝類、ゴカイ類、そして生きた化石といわれるミドリシャミセンガイなどが生息し、大阪南港グループの和田太一さんとの調査では約290種が記録され、多様な底生生物群集が生息していることが明らかになりました。そして、それらを餌としている野鳥が一年を通して多数飛来し、その種類は120種以上になります。特にシギ・チドリ類の重要な飛来地となっており、春と秋を中心に約40種類が飛来します。中でもソリハシシギ、キアシシギ、チュウシャクシギの3種類が東アジア・オーストラリア地域水鳥ネットワーク(シギ・チドリ類)の参加基準を超え、2004年8月に参加が承認されました。冬にはオオズグロカモメとズグロカモメも見られます。オオズグロカモメが国内で定期的に観察される唯一の場所であることは全国に知られています。また、近年はクロツラヘラサギが越冬するようになりました。世界で約2300羽しか生息しない希少種で、今年1月の世界一斉調査では球磨川河口を含む八代海で65羽(世界の2・8%)の越冬が確認され、付近は日本最大の越冬地になっていることが分かりました。
このように、球磨川河口干潟には多様な生物が成育する干潟生態系と河口景観が残され、水鳥にとっても中継・越冬地としてなくてはならないサンクチュアリになっており、ラムサール条約湿地として未来に残すべき重要な湿地と確信しています。
水鳥ネットへの参加を契機に多くの人に関心を持っていただき、小中学校での環境体験学習の機会も増え、さらに上流域のダム建設事業が中止され、荒瀬ダム撤去が決まるなど、球磨川河口干潟にとって明るい兆しが見られるようにもなりました。貝掘りなどのために干潟に入る人の数が急増して、干潟のオーバーユースが危惧される新しい課題も出てきましたが、ここを持続的に利用してきた先人たちに思いを馳せつつ、ラムサール登録に向けて各地の湿地保全活動と連携していきたいと思います。
球磨川河口干潟と水鳥
オオズグロカモメ
(ラムネットJニュースレターVol.4より転載)
2010年08月20日掲載