生物多様性と湿地保全(4/最終回) 生物多様性条約COP10での水田関連の取り組みとその成果
ラムネットJ共同代表 呉地正行
2010年10月18〜29日に、生物多様性条約第10回締約国会議(CBD/COP10)が名古屋で開催され、ほぼ全期間を通じて参加しました。CBDは、多様な生きものを保全し、その恩恵を末永く利用可能にし、遺伝資源から得られる利益の公平な分配をめざす条約です。会議の主目的は、締約国政府が生物多様性の未来に関わるさまざまな決議案等について議論し、その採択を行うことですが、それに関連するイベントも多く行われました。会議場内では346の公式サイドイベント、会議場外では多数のブース展示、フォーラム、イベントが行われ、多数のNGOも含め、国内外からの参加者が1万人を超えるとても大きな会議でした。その分野も多様で、会議全体については把握しきれないことが多くありましたが、私たちの立ち位置である、農業湿地としての水田の生物多様性の保全という視点からは、評価できる成果が得られたと思います。
CBD/COP10本会議の最終日の様子
CBD市民ネット水田部会の展示ブース
この会議では日本政府が提案した2つの決議が採択されましたが、これらはいずれも私たちラムネットJが発案し、日本政府に働きかけ、具体化したものです。そのひとつは、CBD「水田決議」です。これは2008年のラムサールCOP10で、日韓NGOと日韓政府が協働した結果、水田決議X・31(水田の生物多様性の向上)が採択されたラムサール条約とCBD条約を、水田の生物多様性でつなぐ架け橋となるものです。名古屋会議に先立って5月にナイロビで行われた事前会合での経緯は、前回述べましたが、COP10の本会議では、農業生物多様性決定(決議)の一部として、その中にラムサールの水田決議も取り込み、ほぼ無修正で採択されました。もうひとつは「国連生物多様性の10年」を支持する決議で、これはCBD/COP10以降の10年間の生物多様性を活かした活動を支える枠組みとして重要な意味を持ちます。
CBD水田決議は、水田部会が中心となり、1年前から環境、農水、国交省に呼びかけ、10回の会議を重ね、協働して決議案を練り上げてきたことが今回の成果に結びついたと思います。また水田の生物多様性に関するサイドイベントをNGO単独または日本政府やFAO(国連食糧農業機関)と共同して5つ開催し、会議参加者に水田の湿地機能とその生物多様性の潜在的な高さと、その存在が持続可能な未来社会にとって不可欠な基盤となることを国際的にアピールすることができました。
今後の課題としてはこの機運を一過性のものとせず、未来につなぐことが必要になりますが、その枠組みとなるのが国連生物多様性の10年決議で、この決議を背景にして水田の生物多様性向上10年計画を策定し、今後見直しが行われる「生物多様性国家戦略」や自治体レベルで策定される「生物多様性地域戦略」にCBD水田決議の内容を取り込むよう働きかけを行い、この決議が地域レベルで役立つ道具となるようにしたいと考えています。
(写真提供:宇田川飛鳥)
(ラムネットJニュースレターVol.5より転載)
2011年04月22日掲載