諫早湾開門と、よみがえれ!有明訴訟の今

よみがえれ!有明訴訟弁護団事務局長/ラムネット共同代表 堀 良一

■有明海の現状
 あの潮受け堤防が閉め切られて14年。漁業被害は年々累積し、その深刻さの度合いを強めています。
 最近では、ノリ養殖業において、最初に摘採する昨年末の秋芽ノリが壊滅的な打撃を受けました。諫早湾内の漁協では前年比13%しかとれず、有明海の他の地域でも収穫は例年の1/4から1/3、一番被害の少なかったところでさえ、せいぜい例年の40数%の収穫にとどまるというありさまでした。これに続く冷凍網による養殖も危機的で、このままでは2000年の歴史的凶作の再来ではないかと心配されています。

■高裁判決の真摯な履行をサボタージュする農水省
 一昨年の暮れに言い渡された12月6日の福岡高裁開門判決は、漁業被害に苦しむ漁民にとって、大きな希望の光となりました。
 判決は、開門のための準備を3年以内(2013年12月20日まで)に終わらせて、5年間南北両排水門を開放(全開門)すること、ただし、高潮などが予測される場合は例外的に閉門できるということを命じたものでした。そして、その間、開門調査が行われることが前提とされています。
 判決に対しては、背後地の住民、とりわけ干拓地に隣接する森山町の農民から激しい非難の声が上がりました。これを受けて長崎県は上告しなかった国を激しく非難しています。背後地の住民や農民などからは、開門阻止の訴訟が長崎地裁に提訴されました。
 森山町は戦後まもなく造成された干拓地で、農民は農業用水の手当もないままに入植させられ、農業用水を地下水に頼らざるをえませんでした。地下水がくみ上げられるために地盤が沈下し、もともと干拓地で排水が悪かった土地がますます湛水被害に苦しむことになりました。私たちの調査では、戦後造成された干拓地で一番離農率が高かったのがここの干拓地です。この干拓地の農民は、本来の排水対策は排水機場の増設であるにもかかわらず、潮受け堤防ができて水位が管理されるようになれば、自然排水が進み、湛水被害がなくなるというマインドコントロールを受けてきました。そして、現在の干拓事業が提唱されて以来、本来の排水対策であるはずの排水機場の設置は見送られてきました。
 干拓事業で潮受け堤防ができれば、被害から解放されると農水省や長崎県から言われ続けた人々が、国が開門を受け入れることに衝撃を受けるのは当然です。だから、私たちは、判決確定を受けて、農水省に対し、原告の漁民に謝罪するだけでなく、マインドコントロールしてきた背後地の住民や農民にも謝罪しろと迫りました。
 しかし、農水省は謝罪をしないばかりか、開門しても有明海の改善効果は小さいだとか、逆に漁業や農業に被害が出るだとか、被害が出ないようにするためには莫大な対策費用がかかるだとかいう内容の開門アセスを発表して、開門反対派をあおっています。
 その一方で、私たちとの協議は形ばかりのものにして、確定した高裁判決主文の解釈をねじまげ、さすがに全く開門しないとは言えないので、調整池を現在のマイナス1m管理から、外海の海水を受け入れながらさらにマイナス1・2mまでの範囲でだけ水位が上下するように排水門を操作するという開門方法でお茶をにごそうとしています。
 実はいま農水省が提唱している開門方法は2002年に短期開門調査として行ったことがあるものです。農水省はその後の本格的な開門調査をサボタージュして、干拓事業と有明海異変の因果関係が明らかになるのを妨害してきました。今回もそれを再現しようとしているのです。

kano_nousui.jpg
鹿野農水大臣に早期開門を訴える漁民と弁護団

■現在の取り組み
 いま、私たちは、残っている関連訴訟や補助参加した開門阻止訴訟での裁判上の取り組み、国会要請、農水交渉などを行いながら、本年5月の開門を目指しています。
 昨年12月21日には、今期のノリ養殖の深刻な状況も踏まえながら、次の要請を農水大臣に行いました。(1)農水大臣が現地入りし、早期の開門に向けて陣頭指揮を執ること、(2)有明特措法に基づく漁民への救済措置の実施、(3)2012年5月には短期開門調査レベルの開門を開始し、全開門に向けた作業に着手すること、(4)必要な資料を公開し、真摯な開門協議を行うこと。
 全国のみなさんのお力添えを、心よりお願いいたします。

ラムネットJニュースレターVol.8より転載)

2012年02月28日掲載