被災地の湿地を訪ねるツアーで見たガンカモ類と震災の影響
日本雁を保護する会 平泉秀樹
■松川浦とコクガン(2月6日朝)
今回のツアー(ラムネットJ主催、2012年2月5〜7日)で最初に訪れた松川浦では早朝に探鳥してみましたが、昨年2000羽以上が記録された一斉調査地点付近には、ほとんどカモ類が見られませんでした。1月に岩手〜福島を調査してみたのですが、津波の影響を受けた地域では多くの種が数を減らしています(表1)。河川の流入部方面ではカモの群れが見られましたが、集水域からの流入で川の底泥の放射線量はかなり高いことが分かっており、心配です。
表1 津波影響域のガンカモ類
(岩手県中部〜福島県:沿岸浸水域内113ヶ所)
2012年1月と環境省全国調査(2009〜11平均)との比較
外海側の海水浴場に出るところの地域では、珍しいコクガンの小群が見られました。震災で南三陸地区の越冬個体群への影響が心配されましたが、福島以南の出現地点はやや多くなった感があるものの、ほとんどが1〜数羽で大規模な南下はなかったようです。モニタリング調査の結果、南三陸では沈下した漁港岸壁に付着する藻を食べる群れが多く見られ、大きく移動するのではなく、生活を少し変えて越冬しているようです(写真2)。
松川浦大須海岸
がれき、倒木等処理中(2月6日)
石巻市渡波港のコクガン
沈下した漁港船着き場(手前の色の違う部分)で採餌(1月7日)
■宮城県沿岸部(2月6日)
仙台東道路で北上中は周囲に延々と荒れ果てた被災農地が続きます。復田にはまだまだ時間がかかりそうで、水田生態系に依存する多くの生物が失われたことが改めて実感されました。松島湾の船上でも鳥を探しましたが、スズガモなどはそれほど多くありませんでした。養殖筏などが流されて開水面が増えると入ってくる鳥がいるかと思ったのですが、松島湾岸は人的被害が少なかったために復興が進んでいるのか、養殖筏などは少なくなく、アマモ場が失われた影響などの方が大きかったのかもしれません。
■伊豆沼・蕪栗沼・化女沼(2月7日)
天候不順で残念でしたが、激震で堤防などの被害があったにもかかわらず、例年同様に多くのガンカモ類が見られました。伊豆沼では、大繁茂した蓮(レンコン)を食べているのか、結氷している割にオオハクチョウの数が多かったのですが、ここでも底泥から高い放射線量が記録されていて心配です。蕪栗沼と化女沼のある大崎市では、9月に捕獲されたカルガモの肉から一般食品の新基準を超える線量が計測されていますが(表2)、公的な水域線量調査は行われていません。カモ類の汚染についても宮城県全体でわずか3個体のカルガモが検査されただけで、湿地登録の国際的な責任を果たしているとはいいがたい状況です。
表2 カモ類肉Cs線量 単位:Bq/kg(乾重)
宮城県・福島県の2012/3/4までの発表資料による
※もっと調査する必要あり
(ラムネットJニュースレターVol.9より転載)
2012年05月22日掲載