湿地巡り:六条潟(愛知県)
六条潟と三河湾を守る会 市野和夫
六条潟は、渥美湾(三河湾東部)の最奥部、豊川河口に広がる干潟、浅場です。明治期の1000ヘクタールにおよぶ大規模干拓事業にもめげず、豊川河口から供給される清流と砂によって何とか生きながらえてきました。渥美湾は浅くて水の交換がゆっくりしており、栄養物質が生物に循環利用されて、魚介類が湧くように育つ豊かな海でした。アマモ場も一面に広がっていました。
豊かな海に異変が起きたのは、1960年代末から70年代を中心に行われた三河港と臨海工業基地の埋め立てでした。ちょうどそのころ、豊川上流では水源開発が行われ、河川流量や砂の流下も減りました。さらに90年代にはリゾート開発による埋め立ても加わりました。こうして、現在の渥美湾は夏季には毎年大規模な貧酸素水塊に覆われ、青潮(苦潮)発生回数が日本一多い瀕死の海となっています。
このように悪化した状況の中でも、六条潟では、毎年潮流で運ばれてくる幼生プランクトンが着底して、アサリの稚貝が大発生をします。大発生したアサリ稚貝は放っておくと、秋口に多く発生する苦潮で全滅してしまいます。このアサリの稚貝が20ミリ程度に育ったところで漁業者が採取し、三河湾各地のアサリの漁場へ移植して、2〜3年ほどかけて成貝に育ったものを漁獲するという「愛知方式」が工夫されています。この工夫によって、国内産のアサリの少なくない部分が三河湾(愛知)産として市場に供給されています。
2011年4月に改訂された三河港の第6次港湾計画では、六条潟は埋め立て計画地から外され、環境保全ゾーンに指定されました。ラムサール条約登録の潜在候補地でもあります(2010年9月選定)。現在、渥美湾の再生に向けて、よりよい保全の仕組みづくりが求められています。
春の六条潟の生物調査
苦潮による被害で堆積した貝殻
(ラムネットJニュースレターVol.9より転載)
2012年05月22日掲載