日本における最近のラムサール条約湿地登録をめぐる状況
ラムネットJ事務局長 浅野正富
■条約湿地46か所に
日本政府は、2007年11月に第3次生物多様性国家戦略を策定し、その中で、当時33か所が登録されていたラムサール条約湿地について、ラムサールCOP11までに新たに10か所を増やす数値目標を掲げた。その後2008年のCOP10までに4か所を追加登録したため、2010年3月に策定された「生物多様性国家戦略2010」では、COP11までに残り6か所を増やす目標が維持され、2012年5月に、7月のラムサールCOP11までに新たに9か所、6,941ヘクタールを条約湿地に登録することが発表された。この追加登録により、日本の条約湿地は、46か所、137,968ヘクタールとなる。
■今後も積極的な追加登録を
日本は、1980年にラムサール条約に加盟した後1999年のCOP7までに11か所しか条約湿地に登録できなかった。しかし、2005年までに倍増するため11か所の追加登録を目指し、2002年のCOP8では2か所、2005年のCOP9では20か所の登録を実現して、合計33か所と3倍増を果たしてしまった。その後も前述のとおり2008年のCOP10までに4か所、2012年のCOP11までに9か所と追加登録しており、ここ10年間の条約湿地追加登録はそれ以前に比べてハイペースになっている。2004年〜2005年に環境省は国際基準を充たすだけでなく保全の法的担保も備えた条約湿地候補地として54か所を選定して2008年までに22か所を登録した。その後、2010年9月には環境省は新たに国際基準を充たす172か所の潜在候補地を選定しているが、まだ163か所が残されており、今後も環境省はじめ関係者の努力により、積極的に追加登録が進められなければならない。
■生物多様性国家戦略での数値目標の設定
生物多様性国家戦略は、2012年9月までに「生物多様性国家戦略2012」に改訂される予定であるが、2012年5月ラムサール・ネットワーク日本は、環境省に対し、「生物多様性国家戦略2012において、ラムサール条約湿地登録の数値目標として、2018年に開催が予定されるラムサールCOP13までに、国内の条約湿地を新たに15か所増やし、登録面積を既登録湿地も含め16万ヘクタールまで拡大することを目指すべきである。」と提言している。ラムサール・ネットワーク日本は、2010年1月に、ラムサール条約湿地に関する中長期目標として、「2030年のCOP17までに、少なくとも100か所以上、のべ75万ヘクタール(わが国の国土面積の約2パーセント相当)以上の湿地を登録する」ことを掲げるべきと環境省に提言したが、未だ環境省は中長期目標を設定していない。しかし、本来設定されるべき中長期目標を実現するためにも、5年程度の期間を目処としている生物多様性国家戦略の数値目標については、上記の目標が設定されるべきであり、特に面積の増加に関しては、決議X.31「湿地システムとしての水田の生物多様性の向上」に配慮し、既登録湿地の周辺水田を積極的に条約湿地に編入して行くことが強く望まれる。
■河川法による保全の法的担保措置
また、今回の追加登録では、渡良瀬遊水地と円山川下流域・周辺水田の2か所について、土地利用規制について河川法に基づく河川区域指定を保全の法的担保措置とすることが認められた。日本では、環境省が条約事務局に登録手続を行う際、国際基準を充たすだけでなく、国内法による保全の法的担保措置が取られていることを登録の条件としており、環境省所管の自然保護に関する法律以外の法律に基づく保全の法的担保措置は初めてである。環境省と河川法を所管する国土交通省との協議による成果であるが、今後、同様な事例を増やし、省庁間の縦割りを排して、政府全体で条約湿地の追加登録に取り組んで行くことが期待されよう。
※この記事は、ラムサールCOP11向けて発行した「ラムネットJニュースレター」号外(英語版)に掲載した記事の日本語の元原稿です。
2012年07月08日掲載