震災による沿岸湿地と水鳥への影響

H.Hiraizumi's Birding Page 平泉秀樹

1. 湿地への影響
 震災による湿地への影響としては、振動やそれに伴う液状化、地盤沈下(干潟消失)、津波による物理的破壊、水田の冠水・塩害(非耕作化)などがある。幸い条約登録湿地への影響は少なかったが、三陸沿岸や仙台湾岸部にある環境省選定の潜在候補地7ヶ所では、津波による地形変化や底生生物減少(蒲生干潟、鳥の海、松川浦ほか)、内湾の藻場・アマモ場や依存する小動物への影響(宮古湾、大槌湾、松島湾ほか)、ヨシ原の衰退(北上川河口部ほか)などの多くの変化が報告されている(図1、2)。沿岸の潟湖には海側の洲が破れて水環境が激変した例もあるが、現在は砂州が復活している。各地で油やPCB等が流出し、被災下水処理場からの簡易処理水放流も続いている。放射性物質は池沼や河川下流部に流入・蓄積し、伊豆沼の底泥で高い放射線量が記録されるなど、長期的影響が心配される。また、復興工事による湿地の破壊やアセスメント免除の動きも懸念される。

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図1 地震の物理的影響の程度と重要湿地 ★:登録湿地 ●:潜在候補地

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図2 湿地の被災状況の例


2. 鳥類への影響
 春〜夏には、利根川周辺低地帯の液状化で用水路が破損し水田に水が入らなかったためシギ・チドリ類の分布が変化し、営巣林の被害や食物不足のためサギ類の集団営巣地が消失・縮小したほか、北上川河口部の草地性小鳥類の分布の上流への移動や、沿岸島嶼の海鳥類の営巣状況の変化が報告されている。冬には、仙台湾岸の津波被災域でハクチョウ類やカモ類の越冬数が減少したほか、アマモの減少に加えて養殖筏が減少したため、付着する海藻類を利用していたコクガンが漁港内の岸壁などで採食するのが多く観察された。小鳥類についても、ヨシ原の消失により複数の河口部でオオセッカの越冬が認められなくなったとの報告がある。汚染については、関東を中心に油曝鳥の報告がある。水域の放射線量調査は取水地点中心で全ての登録湿地が対象ではなく、カルガモのやや高い放射線量の計測例もあるので(表1)、今後水域環境や水鳥の調査が必要である。

表1 湿地や水鳥の放射能汚染例(Bq/kg)
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※この記事は、ラムサールCOP11向けて発行した「ラムネットJニュースレター」号外(英語版)に掲載した記事の日本語の元原稿です。

2012年07月08日掲載