ドナウデルタの旅

渡良瀬遊水池をラムサール条約登録地にする会 高際澄雄

 どこまでも続くヤナギの森。その切れ目に出現する力強いヨシの群生。飛び交う鳥たち。抜けるような青空と白い雲。そして豊かな水流。ドナウデルタは私に湿地の限りない魅力を教えてくれました。
 ラムサール条約COP11に参加するためにルーマニアを訪れた私たち「渡良瀬遊水池をラムサール条約登録地にする会」の8人は、スケジュールをやりくりして、泡瀬、諫早、藤前などの方々と、ドナウデルタ・ツアーに参加することになりました。当初、綱渡りのようなスケジュールを危ぶみましたが、参加して本当によかった。湿地のありようを学ぶことができたからです。


 ドナウデルタ・クルーズはトゥルチャという町の波止場から始まりました。最初の30分は、本流を航行していたので、風景を見る気になれませんでした。ところが支流に入って景色が一変しました。川岸にヤナギが迫り、サギが水辺で魚を狙っています。「ペリカン!」と船長の声。みんなで見上げると、30羽ほどのペリカンが大きな翼を広げ、青空を舞っています。岸辺にはオハグロトンボに似た、金属光沢のトンボが、キラキラ光りながら飛び交っています。ヤナギ林が切れると、3メートルはあるかと思われるヨシの群生する沼が現われ、カモやハクチョウの泳ぐ姿が見られます。舳先をカモメやサギ、シギが絶え間なく横切ります。そしてヤナギの森の上には青い空と白い雲。吹きわたる川風の心地よさ!


 かつてドナウデルタも開発の対象とされ、ダムが作られ、ヨシの群生が破壊されたそうですが、湿地の保全に取り組み、ゴミの投棄を厳しく禁じているため、人の出すゴミがほとんど見られません。これが心地よさの最大の原因でしょう。
 広いと思っていた渡良瀬遊水地もドナウデルタの120分の1で、水量も比べるべくもありません。しかし昔そこには広大な沼がいくつもあったのです。時間をかけて徐々に昔にもどさなければならない、と強く感じた旅でした。
ラムネットJニュースレターVol.10より転載)

2013年02月18日掲載