ミャンマーでの水鳥調査

ラムネットJ 富田 宏

 2012年12月12日から16日まで、ミャンマーのマルタバン湾に飛来する水鳥の調査に行ってきました。当地での調査は2010年からラムネットJの柏木実さんを中心として進められています。これまでの調査から、マルタバン湾(写真1)がヘラシギの最大の越冬地であることが明らかにされ、地域の人々によって漁網を使った鳥類の捕獲が行われており、それがヘラシギを絶滅の淵に追いやった可能性が高いことが示唆されています。

写真1
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 ヘラシギは今、アジアの水鳥の中で最も絶滅の可能性が高いと考えられており、世界でわずか300羽ほどしか生息していないと推定されています。絶滅の危機からヘラシギを救うために、ヘラシギの繁殖地(北極圏)・中継地(日本、韓国、中国など)・越冬地(ミャンマー、タイ、バングラディッシュ)を含む広域的な保全が必要です。
 東京から南西方向に4700km離れたミャンマーは、日本の1.8倍くらい(67万6578km2)の面積があり、その国土は標高5000mから平野部に広がるデルタ地帯、河口・沿岸の干潟まで、著しい標高差を含んでいます。南部のマルタバン湾はヘラシギをはじめとした水鳥の重要な生息地として注目されていますが、中部、北部の山間部の森林もまた野生生物の重要な生息地として知られており、2011年にはミャンマー北部のカチン州の山地で新種のシシバナザルの仲間が発見されています。
 私たちがヘラシギをはじめとした水鳥を調査しているマルタバン湾には多くの水鳥が飛来します。これまでに私たちの調査ではヘラシギを含め26種の水鳥が記録されています。この地域が鳥たちにとって重要な生息地である理由の一つが、鳥たちのフライウェイが交差する場所だからではないかと考えています。マルタバン湾では、日本でも見られる水鳥(東アジアフライウェイを季節的に移動する鳥)が確認される一方で、インドトキコウ(Painted Stork)、ヒメツバメチドリ(Small Pratincole/写真2)といった主に中央アジアに分布する水鳥も確認されます。
 2012年12月の調査では、マルタバン湾で越冬する水鳥の調査と、マルタバン湾周辺で暮らす人達の生活状況についてヒアリング調査を行いました。

写真2
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写真3
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●マルタバン湾の水鳥調査
 今回の調査では25羽のヘラシギを確認しました。このうち11羽はヘラシギだけの群れをつくって右へ左へくちばしを動かしながら餌をとっていました(写真3)。ひょっとしたらその中には2012年の夏に日本のどこかの湿地で羽を休めていたヘラシギがいたかもしれません。

●地域住民へのヒアリング調査
 今回の調査では初めて地域住民へのヒアリング調査を実施しました。特に注目すべき問題として明らかになったのは土地の浸食です。土地の浸食は河川が運ぶ土砂、沿岸の漂砂、そして波浪や地球規模の海面上昇など、さまざまな要因が関わる問題です。今後この地域のラムサール条約登録に向けた活動や、地域の持続的な発展にむけた議論において、ヘラシギをはじめとした水鳥の調査に加え、沿岸の物理環境の調査、地域住民の生活に関する理解を深めていかなければなりません。
ラムネットJニュースレターVol.11より転載)

2013年03月21日掲載