湿地巡り:釧路湿原(北海道)
トラストサルン釧路 杉澤拓男
国内最大の湿原ということはもう誰でも知っている。いまさらその面積などを数値データなどで示す必要もないのだが、勘違いもあるので示したい。釧路湿原国立公園の面積は約2万6000ha。これがそのまま湿原面積と思っている人も多い。この面積は周辺丘陵の山林地域を含めての国立公園面積で、山林を除くと湿地の保護面積は約1万8000haほどでしかなく、現存する湿地は約2万4000haほど(ラムサール条約の定義からするともっと広いかも)とされているから、保護されていない湿地は推定6000ha近く残っている。昨年、国立公園地域が見直し・拡大された。しかし、国内で釧路湿原でしか発見されていないキタサンショウオの主要な生息湿地(釧路市地域)がほぼ保護されていないままで、この地域では湿地を埋め立て高速道を貫通させる工事が進められている。さらに、ラムサール条約の視点からいえば、湿地は「流域単位」での保全が必要だが、釧路湿原での流域保全は程遠く、流域での天然・自然林の皆伐・破壊によって、そこからの土砂排出による湿原の乾燥化が続いている。
釧路湿原の東側には自然河川としての本来の川の姿や湿原の広がりを展望できる細岡展望台があり、この眺望や東側地域の湖沼群などでは湿原に育まれて生きるタンチョウ、オジロワシなどの野生動物たちの姿が観察しやすく、湿原の豊かさを実感できる地区になっている。その反対、西側にある温根内木道を使うと湿地特有の植物群落や低層湿地・高層湿地など多様な姿に気軽に接することができる場所として楽しめる地区となっている。釧路湿原をしっかり見るには少なくても1泊2日の時間はとって欲しい。釧路湿原を道なりで一周しても約150kmほどになるからだ。
釧路湿原を蛇行する釧路川
混み合うタンチョウ給餌場
釧路湿原といえばタンチョウの生息湿地として知られ、戦後間もなくまで絶滅寸前の鳥だったが地域住民の保護活動で最新の調査では約1200羽となった。冬季は保護のため餌を与えている給餌場が狭いことで「押し合いへし合い」状態になり、観光客的には面白いのだが伝染病の危惧もあり、現在、タンチョウの越冬地等の分散化が急がれている。本来タンチョウは本州が越冬地、北海道が繁殖地であったと見られ、江戸時代のように本州各地に「渡り」、越冬することが期待されている。コウノトリの事例もあり本州各地の湿地・干潟でタンチョウの越冬地が必要になっている。その意味で本州以南の湿地・干潟で「おいでよタンチョウ」と手を上げていただく場所が生まれればうれしいと思っている。
(ラムネットJニュースレターVol.12より転載)
2013年04月23日掲載