辺野古の埋め立て申請書に対する意見書を提出
ラムサール・ネットワーク日本では、米軍基地建設に向けて政府が沖縄県に提出した名護市辺野古の埋め立て申請書に対する意見書を、2013年7月15日付けで提出しました。意見書の内容は下記の通りです。
公有水面埋立承認申請書(名護市辺野古)に係る利害関係人の意見書
平成25年7月15日
沖縄県知事 仲井眞弘多 殿
NPO法人ラムサール・ネットワーク日本
共同代表:花輪伸一、柏木実、呉地正行、堀良一
利害関係の内容
NPO法人ラムサール・ネットワーク日本は、ラムサール条約にもとづき湿地の保全と賢明な利用を図ることを目的に活動している。辺野古・大浦湾・嘉陽の沿岸域は、生物多様性に富む重要な自然環境であり、これまで本会等が主催する「沖縄・大問題シンポ」(2012年10月沖縄市および2013年2月東京都)の重要テーマのひとつとして取り上げてきた。また、辺野古・大浦湾をはじめとする「沖縄・大問題ツァー」を企画し、メンバー等10数名が問題になっている現地を訪問するエコ・ツァーを実施し、地域住民との交流も行っている(2011年6月および2013年7月)。したがって、辺野古の公有水面埋め立てに関して、本会は大きな利害関係を有している。
意 見
辺野古・大浦湾・嘉陽の沿岸域、海域は、琉球列島の生物多様性を保全する上で、極めて重要な場所であるため、米軍基地建設のための辺野古地先埋め立てに強く反対する。沖縄県知事は、沖縄防衛局による公有水面埋立申請(名護市辺野古)を承認するべきでない。
理由は、以下のとおりである。
1. 自然環境保全指針の厳正保全区域である
沖縄県の「自然環境の保全に関する指針」によれば、名護市の松田、久志、辺野古、キャンプ・シュワブの沿岸域は「評価ランクⅠ」であり「自然環境の厳正な保護を図る区域」とされている。この沿岸域のサンゴ礁は、沖縄島の周囲では陸地から比較的遠くにあり、イノー(礁池)の面積も広く、規模の多きいものである。したがって、辺野古の沿岸域での埋め立てや米軍基地の建設を行うべきではなく、環境保全を優先するべきである。仮に、埋め立てを承認することになれば、環境保全のための政策と大きく矛盾することになる。
2. ジュゴンの生息場所である
辺野古・大浦湾・嘉陽の沿岸域は、日本で最も絶滅のおそれの高い哺乳類であるジュゴンの重要な生息場所である。これらの沿岸域には、ジュゴンの採食場所である海草藻場が広がることから、ジュゴンの絶滅防止を図るためには、これらの藻場の保全が不可欠であり、特に、沖縄島沿岸では最も面積が大きい辺野古地先の藻場に関して十分に保全するべきである。仮に、埋め立てが行われ軍事基地が造られ、オスプレイその他の航空機や艦船による軍事演習が実施されることになれば、藻場の大部分が失われ、騒音等による攪乱もあり、ジュゴンの絶滅可能性はさらに高くなると思われる。
3. 世界自然遺産の構成資産として重要である
現在、琉球列島は「奄美・琉球」として世界自然遺産の暫定リストに記載されている。今後、区域が確定すれば、条約事務局に申請することになる。琉球列島は、固有種・固有亜種の種分化、絶滅危惧種および生物多様性が登録基準を満たしていると言われる。沖縄島に関しては、国頭山地のやんばるの森は十分に基準を満たしている。一方、辺野古・大浦湾・嘉陽の沿岸域では、30数種の甲殻類の新種が発見されるなど、海域生物の種分化、生物多様性を示す自然遺産となる可能性を含んでいる。世界自然遺産の構成資産として検討する価値が十分にあることから、この沿岸域での埋め立てを行うべきではない。
4. 「大浦川及び河口域」は「ラムサール条約潜在候補地」である
大浦湾に流入する「大浦川及び河口域」は、環境省の「ラムサール条約潜在候補地リスト」に記載されている。これは、ラムサール条約湿地としての国際基準を満たし、湿地の生物多様性を保全し賢明な利用を図る上で国際的に重要な場所であることを示している。名護岳・多野岳の東斜面の集水域の森、大浦川流域、大浦湾は、森・川・海がコンパクトに連続した環境であり、全体を自然公園法にもとづく公園とし、環境保全を図りながら環境教育、観光などに役立てることが地域振興につながると考えられる。埋め立てと軍事基地建設は、豊かな自然資源を破壊するだけで、地域の振興にはならない。
5. 環境アセスメントが科学的、民主的でない
環境保全のための図書として「普天間飛行場代替施設建設に係わる環境影響評価補正書」(辺野古アセス)が使われている。しかし、この辺野古アセスは、アセス前のボーリング調査、水中ビデオ、パッシブソナーなどの設置により、辺野古海域の海底環境やジュゴンに影響与えてからアセス調査が行われるなど非科学的なものであった。また、辺野古アセスでは、住民が意見を述べる場のない事業計画の後出しが多く、非民主的なものであった。オスプレイの配備は、評価書段階まで隠され、配備後は約束違反の飛行が繰り返されるなど、アセス自体の意義が疑われるものである。また、沖縄県知事の409件におよぶ意見や専門家、住民等の意見に対しては、必要かつ十分な回答がなされておらず、形骸化した回答や趣旨とずれたものが多く、これでは知事意見にあるように「自然環境と生活環境の保全は不可能」である。
6. 埋め立て土砂の調達先等の問題
埋め立て承認申請書では、購入を予定している埋め立て土砂の採取場所と採取量、有害物質、外来生物の検査については、具体的な計画が示されておらず、土砂の調達計画全体が明らかにされていない。これでは、土砂の採取先の環境保全は困難であり、埋め立て予定地への有害物質や外来生物の混入防止も不可能である。仮に、具体的な土砂調達計画が、埋め立て承認後でも可となれば、公有水面埋立法に反し法の形骸化につながる。また、事前の環境対策もあいまいなものとなり、適切な環境保全が図られる可能性は低くなると思われる。一方、沖縄島においては、辺野古公有水面埋め立てと同時に、那覇空港第2滑走路計画による公有水面の埋め立て計画も建てられている。事前に双方の埋め立て土砂の具体的な調達計画が示されなければ、沖縄島沿岸あるいは九州沿岸等の土砂採取に競合が起こり、沿岸域の海底環境がさらに悪化する可能性がある。
7. 地域住民の生活環境への悪影響
埋め立てによって沿岸域の自然環境が悪化することは、地域住民の生活環境を悪化させるだけでなく、海辺やサンゴ礁を利用する伝統的な行事や文化も失われることになり、地域社会にとって悪影響が大きいと考えられる。辺野古沖のイノーやクチ、リーフには古くから、陸上と同じように名称が付けられており、これらも失われてしまうことになる。仮に、軍事基地が造られた場合には、オスプレイ等軍用機の騒音、夜間飛行など、軍事演習による生活環境の悪化と事故の危険性が高まり、安全で安心な地域住民の生活が著しく脅かされることになる。
以上
2013年07月20日掲載