諫早湾開門をめぐる近況と開門後の課題

よみがえれ!有明訴訟弁護団事務局長/ラムネットJ共同代表 堀 良一

諫早湾調整池

アオコで緑色に染まった諫早湾の調整池(写真:大島弘三)

 2010年12月20日確定の福岡高裁開門判決が命じた3年の開門期限まで2カ月を切った。農水省は、ようやくここにきて地元への説明会を開催し、説明用のパンフレットを配布するなど慌てた対応をしている。しかしながら、地元は開門への不安から頑なな開門反対の姿勢を崩さず、2度にわたって開門準備工事(干拓農地や背後農地の代替農業用水、既存堤防の補修など)の着工を実力阻止している。
 この混乱を招いた責任の大半は農水省にある。農水省によれば、期限まで2ヶ月を切った今でもなお、準備工事は間に合うという。そんな短期間で準備工事ができるのなら、なぜ、開門判決確定後、ただちにパンフレットの配布や説明会の開催をしなかったのか。この3年間、開門を待ち望みながら不漁に苦しんだ漁民の姿を思い浮かべると怒りは収まらない。
 県民である漁民の現実の被害に目を閉ざし、地元の不安を煽ってはばからない長崎県知事の責任も重大である。地方自治体の首長が確定判決を履行しないように国に求めるなど、前代未聞の憲法違反である。
 農水省の対応には、開門判決を敵視し、開門調査によってこれ以上諫早湾干拓と有明海異変・漁業被害の関連性が明らかになるのを妨害しようとする意図が見え隠れする。農水省の開門方針は、短期開門調査レベルの最小限の制限開門(調整池水位をわずかに20 cm上下させるだけの潮の導入)だけを開門判決の命じた5年間行って、その後は確実に閉門するというものだ。こんな、何のための開門かと言わなければならないような方針を、地元の反対を口実に押し通そうとしているのである。開門判決が5年間に限って開門を命じたのは、その間に、きちんと開門調査が行われて、有明海再生に向けた今後の方針が定まることを期待したものであった。開門調査の結果、諫早湾干拓との関連性が否定されて閉門するということは形式的な選択肢としては考えられるものの、開門調査がきちんと行われれば、有明海異変・漁業被害と諫早湾干拓の関連性はより明確になると漁業者は確信している。開門調査が適正に行われた後の選択肢は、開門の続行もしくは有明海再生に向けた開門プラスアルファの対策である。
 当面の焦点は確実に開門させることである。その後には、段階的に開門の程度を大きくし判決の命じた全開門にステップアップすること、そして、科学的で緻密な開門調査を実現し、有明海再生、宝の海の復活を確実なものにしていくこと、そういう課題が待ち構えている。
 諫早の取り組みは、緊張感をはらみながら、いま、正念場を迎えている。

ラムネットJニュースレターVol.14より転載)

2013年11月30日掲載