四国横断自動車道吉野川渡河部建設に関する国交省への要請

 ラムサール・ネットワーク日本は、とくしま自然観察の会などと共同で、下記の「四国横断自動車道 吉野川渡河部」建設にかかわる河川協議および生態系保全についての要請文を、2015年11月30日、国土交通省に提出しました。


2015年11月30日
国土交通大臣 石井 啓一 様
国土交通省 四国地方整備局長 石橋 良啓 様
国土交通省 四国地方整備局 徳島河川国道事務所長 竹島 睦 様

とくしま自然観察の会
特定非営利活動法人 ラムサール・ネットワーク日本
公益財団法人 日本自然保護協会
公益財団法人 世界自然保護基金ジャパン

「四国横断自動車道 吉野川渡河部」建設にかかわる
河川協議および生態系保全について(お願い)

 吉野川は、四国三郎とも呼ばれる大河川です。その河口は日本一の川幅を誇り、河口から第十堰の14.5kmまで、日本最大級の汽水域を有し、河口に広がる干潟は、渡り鳥の重要な中継地として「東アジア・オーストラリア地域シギ・チドリ類重要生息地ネットワーク」の参加地になっています。吉野川河口の生態系は、河口域から紀伊水道の漁場を支え、多くの生態系サービスを生み出す源です。
 阿波しらさぎ大橋建設モニタリングに係る貴省の指導、監視のあり方は、全国のモデルとなっており、なかでも、河川における汽水域の価値を貴省自身が評価したことは、素晴しいことであり、事業主の徳島県もモニタリング調査を正当な仕組みとして位置づけ、最大限努力したことに感謝しています(資料1)。

 しかし、その河口に、国内最長級の渡河橋と言われる「四国横断自動車道吉野川渡河部建設事業」(以後、渡河橋事業)が、西日本高速道路株式会社(以後、NEXCO西日本)により進められ、11月中にも準備工事が始まるとされています。
 NEXCO西日本による渡河橋事業には、吉野川河口域を河口干潟、沿岸海域を一体としてとらえ、その連続性の重要性こそが大切であるという意識が欠落しています。また、先行事例となる阿波しらさぎ大橋のデータがあるにも関わらず、環境保全の面からの調査や具体的な施策内容は甚だ不十分と言わざるを得ない状況で、かつ橋が架かる周辺の地域のみを影響予測範囲として限定することに終始し、モニタリング調査の範囲を大幅に縮小しています。渡河橋事業の工事が、吉野川河口域の景観はもちろん、生物多様性、生態系維持の観点から、河川と海の連続性を分断し、破壊する工事計画であることに真摯に向き合い、NEXCO西日本にはこれを未然に防止すべく尽力してほしいと考えます。

 吉野川河口域は河川管理区域であり、また海域部分も国有財産であり、管理者は国土交通省と聞いています。国民の財産である吉野川河口域についての認識をあらたにして、民間企業の事業が周辺環境全体に与える甚大な影響を正しく理解し、監督官庁として将来にわたって責任ある指導をお願いいたします。
 とくに本件は、道路事業と、河川保全と海域保全という複数の課題があるため、水管理・国土保全局と道路局との密な連携と協力による包括的な指導をお願いいたします。道路行政は、道路工事を行う民間業者を監理する役割もあります。道路行政担当部局による、河口干潟への環境配慮や合意形成についてのNEXCO西日本への指導を期待します。

 今回私どもが真に訴えたいことは、「人と自然のつながり」に配慮した公共工事の実施が最早常識となり、そのための環境影響予測とその工事への反映がルーティン化している今日、NEXCO西日本が進める渡河橋事業に係る環境対策が、あまりにも杜撰であり、徳島市民をはじめとする地域住民の吉野川に対する思いに十分応えていないということです。以下に、河川管理者である貴省への要望、ならびに貴省から事業主であるNEXCO西日本に対して指導をお願いしたい事項を申し上げます。

1.モニタリング調査の手法と結果を検討する仕組みを社会的に妥当なものとすること
① 工事期間中及び供用後の相当期間のモニタリング調査を河川協議で明記すること
② 環境保全を審議する検討会について、検討内容と議事録の公表を見直すこと

2.モニタリング調査を、科学的・社会的に妥当な仕組みと方法に基づいて実施すること
③ モニタリング調査におけるデータを、予備調査も含めて毎年定期的に公表すること
④ 近接する「阿波しらさぎ大橋建設事業」と渡河橋建設による複合的な環境影響評価を行うこと
⑤ 複合的な環境影響評価を行うにあたって、「阿波しらさぎ大橋建設事業」の河川協議によって実現したモニタリング調査の結果を活用すること
⑥ 河口干潟のモニタリング調査を継続して実施すること
⑦ シギ・チドリ類の調査方法は、新たな実施項目と併せて、長期的な比較検討ができるよう統一すること
⑧ 調査結果に応じた対応をあらかじめ検討すること。さらに、複合的影響評価の結果をもとに、干潟、河口域、沿岸域の保全、回復、ミティゲーションを検討、実施すること

3.貴重な公共財としての河口域の自然および河川と海域の連続性を、工事によって喪失することのないよう配慮すること
⑨ 生物多様性条約締約国としての役割を果たすこと
⑩ ラムサール条約登録湿地として現在満たしている国際基準を損なわないこと

上記の要望について、NEXCO西日本と協議した結果を、2015年12月15日までに、文書にてご回答くださるようお願いします。
以上

*提出文書のPDFファイル
【要請書・理由書】「四国横断自動車道 吉野川渡河部」建設にかかわる河川協議および生態系保全について(お願い)
【資料1】阿波しらさぎ大橋のモニタリングの成果
【資料2】阿波しらさぎ大橋建設に伴うシギ・チドリ類の生息場所選択への影響評価に関する考察

2016年01月05日掲載