湿地巡り:片野鴨池(石川県)

加賀市鴨池観察館 田米希久代

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 石川県の最南端加賀市の西部に位置する片野鴨池は、周囲を山林に囲まれた淡水湖です。10haのラムサール条約湿地ですが、冬期にはマガン、ヒシクイ、マガモ、トモエガモをはじめとするカモ類が集中して飛来します。夏には水面を覆うようにヒシやマコモが繁茂し、チョウトンボやギンヤンマが生息する豊かな環境をつくっています。
 片野鴨池では藩政時代の昔から人々の営みが湿地に深く関わり続けてきました。元禄時代には、水門による人工的な水管理が始まります。夏は水位を下げて池内での水田耕作を可能にし、鴨池から出た水は灌漑用に周辺地域へ供給されました。一方、冬は水位を上げて水をため、多くのカモが鴨池に集まる環境を作りました。今でも周辺で続けられている伝統猟法「坂網猟」の猟師たちは冬の間に鴨池に人が入らないように注意を払って見守っています。
 人々がたんぼでできた稲を外に持ち出し、坂網猟師たちが豊猟を願うための管理が、この小さな湿地の環境を300年間保ってきました。しかし、鴨池の中での水田耕作は減反政策や耕作の困難さから1999年を最後に行われなくなりました。現在は鴨池観察館友の会と観察館レンジャーが後を継いで、行事としての耕作を市民参加者と共に行っています。

湿地内で行う田植えイベント
湿地内で行う田植えイベント
ねぐらに戻ってきたマガンの群れ
ねぐらに戻ってきたマガンの群れ

 水鳥の生息地を確保する上で、たんぼはとても重要な役割を果たしています。例えば鴨池で冬を越すカモは、昼間は池の中で休息し、夕方には池から出て周囲10kmのたんぼで落穂や二番穂を食べています。カモを守るためには、ねぐらの鴨池だけでなく餌場であるたんぼの環境にも気をつけていかねばなりません。観察館では、冬にたんぼに水をはる「ふゆみずたんぼ」や、降水量が多い北陸特有の気候を利用して、暗渠パイプの栓を閉めて水をためる「雨水たんぼ」を農家の方に提案しています。
 これからも人の生活と自然のバランスを考えながら、農業と環境保全の両立にむけて何ができるかを考えていきたいと思います。

2016年02月18日掲載