危機にあるヘラシギの現状と新たな保護グループの活動について

ふくおか湿地保全研究会 服部卓朗
●ヘラシギとは
 体長(嘴の先端から尾羽の先端まで)の長さが約15cmくらいで、体重はわずか25gほどの鳥です。その名前の由来は、その嘴の形状が、私たち人間が料理などで使っている、篦みたいになっているところからきています。英名はSpoon-billed Sandpiperといってスプーンのような嘴を持ったシギとなっています。
 このヘラシギは北極圏のロシア東部の限定された地域で生まれて、越冬地であるミャンマーなどの東南アジアで越冬する習性を持っていて、日本には、その旅の途中に立ち寄ります。
 このヘラシギの現在の状況は、いつ絶滅してもおかしくないというレベルである絶滅危惧ⅠA類で、国際的な機関であるIUCN、また、我が国の環境省のレッドデータでもそのように記載されています。2015年現在の推定個体数は35〜100番、140〜480羽で、2012年から、英国、ロシアで人工繁殖も試みられています。ちなみに、多くの人が知っているジャイアントパンダの2015年の推定個体数が1864頭ということなので、いかにヘラシギが危ない状況かということが分かります。

ヘラシギ1
2011年9月8日、古賀市花鶴川河口にて
ヘラシギ2
2003年9月25日、福岡市東区名島海岸にて

●ヘラシギをはじめとするシギ・チドリ類全体の保全
 ヘラシギの個体数に関してですが、1990年代半ばに繁殖地の調査を行っているロシア科学アカデミーから2500〜3000番という報告がありました。その後、2000年には1000番、そして、とうとう2015年の報告では35〜100番になり、日本でも2015年の確認例はわずか5個体ということです(1975年、石川県で20羽の記録あり)。
 この期間、私もヘラシギを含めたシギ・チドリ類の観察は行ってきましたし、シギ・チドリ類が依存する生息環境の悪化についても危惧はしていました。しかし、実際ここまで急激に状況が悪化するとは思っていませんでした。これは言い訳ですが、現場の感覚ではもともとヘラシギは個体数が少なくその姿を確認できるのはまれです。それで、主に移動期ヘラシギと行動を共にしているトウネンの個体数が目に見えて減少傾向になってから、はじめて事の重大性を認識したしだいです。
 その後、モニタリングサイト1000、その他の調査を見ても全国的にシギ・チドリ類の個体数が減少傾向にあることがはっきりしました。また、私のようにシギ・チドリ類のことを心配している仲間がいることも分かりました。それで今回、ラムネットJの柏木実さんをはじめ、危機感を共有している皆さんとヘラシギや仲間のシギ・チドリ類全体の保全を目的としたグループを立ち上げることになりました。
 この会の目的は過去の反省も含めて、①世間においてあまりにも認知度が低いヘラシギやその仲間のシギ・チドリ類のことを多くの皆さんに知っていただくための啓発活動を行う、②繁殖地、中継地、越冬地で保護活動をされているNGO等との情報交換、特に、日本国内での情報、意見交換を今まで以上に活発化し、生息地の保全、再生に生かす、などです。

●エコトーン・プライズ受賞について
 このようなヘラシギ保護の活動を、ラムネットJと環境パートナーシップ会議が香港上海銀行グループの寄付により実施しているエコトーン・プロジェクトで支援していただきました。そのうえ賞までいただき、私を含め当会会員の皆も大変感謝しております。これからも自信を持って、物言えぬ生き物たちのために活動を継続していけそうです。

ラムネットJニュースレターVol.22より転載)

2016年02月18日掲載