球磨川河口干潟と野鳥たち

日本野鳥の会熊本県支部/八代野鳥愛好会/ラムネットJ理事 高野茂樹

 八代海は、宇土半島と天草諸島に囲まれた穏やかな内海で、一級河川としては唯一、球磨川が流れ込んでいます。その河口には約1300haの砂泥質の干潟が広がり、多くの水鳥が飛来します。春や秋には多くのシギ・チドリ類が、冬にはシギ類、カモ類、カモメ類が飛来します。広い干潟にはハゼ類、エビ類、ゴカイ類、二枚貝など多様な魚類や底生生物が生息し、潮干狩りなど地元の人々にも親しまれる場所になっており、休日は多くの人々でにぎわいます。

球磨川河口干潟
球磨川河口干潟
クロツラヘラサギ
クロツラヘラサギ

 球磨川河口域では、1985年以来160種類以上の野鳥が観察されています。中でもシギ・チドリ類は約40種が飛来します。環境省モニタリング1000調査対象地であり、全国有数のシギ・チドリ類飛来地になっています。ハマシギ、シロチドリ、ソリハシシギ、チュウシャクシギ、キアシシギ、ホウロクシギ、ダイシャクシギなどはよく見ることができる種類です。希少種のヘラシギの飛来記録もあります。
 2004年に「東アジア・オーストラリア地域フライウェイパートナーシップ(シギ・チドリ類)」に参加しましたが、ラムサール条約湿地への登録はまだ実現していません。
 球磨川河口へのシギ・チドリ類の飛来は、春型や秋・越冬型など幾つかの渡りのタイプがあり、種によって利用する時期が異なっており、球磨川河口干潟は選択的・効果的に利用されています。
 4月中旬に始まった熊本地震は、震度1以上が6月下旬現在で1700回以上記録されています。シギ・チドリ類の春の渡りへの影響が心配されましたが、2015年春期(4、5月)と2016年春期の飛来数/日は、それぞれ約890羽と約820羽で、顕著な差は見られませんでした。種別では、キアシシギで、飛来数/日が約65羽(2015年春)と約40羽(2016年春)とやや減少しましたが、差は認められませんでした。
 また、環境省RDBで絶滅危惧ⅠBに記載されていて、世界で約3200羽しか生息しないクロツラヘラサギの越冬地としても、重要な干潟になっています。日本では、主に九州・沖縄地方で数十羽ずつが分散して越冬しており、2015年1月の世界一斉調査時には、日本では371羽そして八代海では76羽が記録されました。球磨川河口一帯では、中洲や岩礁を休息地、干潟や河口浅水域を採餌場として越冬しています。そして、周辺干潟のほぼ全体を採餌場所として利用しています。2015年度には最大51羽が観察され、2007年度頃からラムサール登録基準個体数を超えるようになりました。
 今回の「重要湿地500」見直しで、シギ・チドリ類に加えて、淡水魚類や底生生物でも重要湿地であることが追加されました。また、上流の荒瀬ダム撤去で、河口域へのシギ・チドリ類飛来にも良い影響がうかがえます。このすばらしい球磨川河口干潟を水鳥や未来の子どもたちに引き継ぐため、ラムサール湿地への登録に向かって、多くの人々と連携しながら活動を続けたいと思います。

2016年09月18日掲載