第4回 生物の多様性を育む農業国際会議(ICEBA2016)と「おやま宣言」

ラムネットJ事務局長 浅野正富

 2010年に兵庫県豊岡市で第1回が開催された生物の多様性を育む農業国際会議(ICEBA)は、2012年の新潟県佐渡市、2014年の宮城県大崎市に続き、本年8月26日〜28日に栃木県小山市で第4回が開催されました。
 実行委員会の副委員長には、ラムネットJ関係から、共同代表で水田部会長の呉地正行氏、水田部会のメンバーであるNPO法人民間稲作研究所の稲葉光國氏とNPO法人オリザネットの斉藤光明氏、そして私浅野の4名が名を列ねました。、
 コウノトリやトキの野生復帰の成功は、地元で農薬、化学肥料を一切使わないあるいは使用量を5割以下にした稲作が広く実践されて田んぼの採餌環境が改善されたことによって支えられています。その取り組みをシンボルとしてICEBAは開催されてきましたが、今回は生物多様性を育む農業を取り巻く状況を広く俯瞰し、将来を展望する機会になることをめざしました。

「田んぼ10年プロジェクト」の分科会
「田んぼ10年プロジェクト」の分科会
閉会セレモニーでの記念写真
閉会セレモニーでの記念写真

 ラムネットJの前身である「ラムサールCOP10のための日本NGOネットワーク」が韓国NGOと連携して日韓両国政府に働きかけ、2008年韓国・チャンウォンでのラムサール条約COP10で採択された水田決議(X.31)は、湿地としての水田が果たしている生物多様性向上の機能を評価し、生きもの豊かな水田を実現して活用する農法を奨励しました。2010年名古屋での生物多様性条約COP10では、2020年までに生物多様性の損失を止めるための効果的かつ緊急な行動として20の個別目標が愛知目標として採択され、また、ラムネットJが日本政府に協力した結果、ラムサール条約の水田決議を歓迎し、その完全実施を締約国に求めた農業生物多様性決議(決定X/34)も採択されました。その後の国連総会では、ラムネットJの提案を基に2020年までの10年間が国連生物多様性の10年と定められました。そして、ラムネットJは愛知目標を田んぼの生物多様性向上の分野で実現するための「田んぼの生物多様性向上10年プロジェクト」を立ち上げ、2013年2月に小山市でのキックオフ集会を開催し、その後5回の地域交流会を重ね、各地で150を超える団体/個人がこの取り組みに参加登録しています。また、登録団体の多くが国連生物多様性の10年日本委員会(UNDB−J)の連携事業に認定されています。

 このようにラムネットJが深く関わる形で生物の多様性を育む農業が生物多様性向上の取り組みの中で主流化してきた経緯をICEBA2016の機会に改めて確認できるプログラムを組み、6分科会の1つは「田んぼ10年プロジェクト」をテーマにしました。ICEBA2016の集大成として最終日の8月28日には、おやま宣言「生物多様性農業の新たな発展によって生きもの豊かな環境を取り戻そう」が採択されましたが、農業技術や食の安全、農業者と消費者の連携等の重要な問題とともに、今に至る経緯をきちんと押さえた宣言になったことで、これからの生物多様性を育む農業が目指すべき方向がよりクリアになったのではないかと思います。
 「ICEBA2016」で検索して小山市のホームページを開くと、おやま宣言のPDFがダウンロードできますので、ぜひご一読ください。

ラムネットJニュースレターVol.25より転載)

2016年11月19日掲載