辺野古問題をめぐる最近の動向と国際社会の動き
日本自然保護協会 安部真理子
辺野古の埋め立て事業(米軍普天間飛行場代替施設建設事業)には、大量の土砂が必要です。合計2100万m3(10トンダンプ350万台分)の土砂は奄美大島、徳之島、瀬戸内、門司、天草、佐多岬、五島と、西日本の広い範囲から土砂が調達される予定であるということが、2013年の公有水面埋め立て承認願書が出された時点で判明しました。距離が離れ、生態系も気候帯も異なる場所も含まれています。埋め立て土砂に付着して沖縄島に入ってくる生物が引き起こす外来種問題が懸念されています。外来種問題とは、人為的に外から入ってくる生き物が、在来の自然環境や野生生物に深刻な悪影響を及ぼす問題のことです。沖縄県もマングースなど、入ってしまったものの駆除できずにいる生物に悩まされてきました。
その経験が、沖縄の生物多様性を保全するための沖縄県土砂搬入規制条例(公有水面埋立事業における埋立用材に係る外来生物の侵入防止に関する条例)へとつながり、2015年7月の沖縄県議会で可決され、同年11月より施行されました。
埋め立て土砂等の採取場所および搬入経路図(公有水面埋め立て承認願書より)※クリックで拡大
世界的に外来生物が引き起こす問題は生物多様性保全のうえで大きな問題ですが、いったん入り込んだ外来生物を駆除することは簡単ではないため、入らないように注意する、あるいは入れるものは厳重にチェックするなど、(外来生物になりうるものは)「入れない」という予防に力を入れています。今年9月にホノルルで開催された、4年に一度のIUCN世界自然保護会議。今回は生物多様性に与える脅威が世界で2番目とされる外来種対策に特に焦点を置いて開かれ、14のセミナーやノレッジカフェなどのイベントが侵略的外来種シリーズとして開かれました。その1つとして日本自然保護協会と外来種駆除を行っている国際NGO「アイランドコンサベーション」の共催で「レジリエントな地球のためのバイオセキュリティ」というワークショップを開催しました。私からは辺野古の埋め立て土砂に伴い侵入する可能性のある外来種の問題について紹介しました。
これらのイベントを通じて確認されたのは、いったん入ってしまった外来種を根絶させるのは、ものすごく時間とお金を要する話であり、生態系にもダメージが及ぶので、予防(prevention)に力を入れる、つまり外来種を除去できないものは、島嶼には入れない、ということでした。
IUCNは世界自然保護会議のたびに政府などに対し勧告を出します。これまでは世界自然保護会議の会場で勧告案について議論がなされていたのですが、毎回数が増えていくため、今回からは事前にオンライン議論と電子投票が行われました。日本自然保護協会は「島嶼生態系への外来種の侵入経路管理の強化」と題した勧告案をWWFジャパン、ジュゴン保護キャンペーンセンター、日本野鳥の会、ラムネットJ、野生生物保全論研究会と共同で提案しました。議決結果は、政府側は賛成80、反対2、棄権74、NGO側は賛成459、反対24、棄権204と、圧倒的多数で無事採択されました(8月31日、日本時間17時30分)。
今回、このような勧告が採択されたことは、辺野古のみならず、日本の島嶼生態系を外来種から守ることにとって大きな意味があります。勧告に記されているように、大量の資材を生物地理区分を超えて運ぶことは、外来種侵入の大きなリスクを伴い、クリアするには多くの要求を満たさなければなりません。日本政府は、勧告に従って、直ちに辺野古の埋め立てに伴い予定されている大量の土砂の導入を見直すか、勧告に書かれている全てのことを実行すべきです。
外来種ワークショップ(右から3人目が筆者)
ホノルルチャレンジの発表(右から3人目がジェノベッシ博士)
また同時に「侵略的外来種のデータベースの作成に向けて」という勧告案も採択されました。さらに、9月4日夜には「侵略的外来種に対するホノルルチャレンジ」が採択され、IUCN関係者一同が今後よりいっそう外来種対策に力を入れていくことが確認されました。
IUCN種の保存委員会侵略的外来種グループ長のピエール・ジェノベッシ博士からは「日本政府を動かすには客観的な事実やデータ、先例を用いること」「生物多様性関係の国際会議を沖縄に誘致すること」などの提案がなされ、また世界自然遺産登録に先立つIUCNの視察に外来種の専門家も同行して欲しいなどの具体的な相談事があれば、いつでも受け付けるというご協力のお言葉をいただきました。
一方で現場である辺野古の埋め立ての方は、昨年起こされた埋め立て承認をめぐる裁判については今年3月に全ての訴訟を取り下げる和解案の受け入れが成立しました。それに従い辺野古の海上の工事に伴う作業は全て止められています。しかしながら9月16日に、国が沖縄県を相手に起こした違法確認訴訟の結果は国の全面的勝利でしたので、今後の進捗が心配です。
(ラムネットJニュースレターVol.25より転載)
2016年11月19日掲載