葛西三枚洲のラムサール登録を目指して
日本野鳥の会東京幹事 飯田陳也
■葛西臨海公園と三枚洲
葛西臨海公園は年間360万人もの人が訪れ、マグロが泳ぐ水族館があることで知られている。オープンは1989年だが、鳥類園は野鳥のための環境整備をして5年後に開園、日本野鳥の会東京はこれを期に探鳥会を定例化して毎月第4日曜日に実施してきた。
臨海公園は約80 ha、特徴は「生き物」をテーマにきちんと理念を持って造成されたことである。水族園のほかに公園の東側1/3は鳥類園、西側は看板こそないが、南側に松林の防風林が配置され、トカゲやカエル、昆虫などがたくさんすむ。ここの「芦が池」ではクモだけで80種類が確認され、昆虫が大好きな子供たちだけでなくマニアックな大人のファンも集まる。
そして特筆したいのは、この公園の海側に広がる海浜公園だ。海に向かって弓型にまがって広がる土手は、臨海公園の付属のように見られている方が多いが、沖の三枚洲を埋めずに残すため考えられた「海上公園」が初めて実現したところである。
荒川と江戸川の大きな2つの河川が運んだ泥や砂が、葛西沖に大きな干潟を形成していて、広さは臨海公園の5倍近くもあり、大きく潮が引くと2km先まで干潟ができる。この干潟の底生生物が多くの野鳥たちを支えている。
戦後の復興期、干潟を埋め、工場を誘致して、国を挙げて行われた産業育成策により、空気が汚れ、川や海水が汚染して、スモッグが発生し、背骨の曲がった魚が出現した。それに危機感を持った漁師や釣り人、野鳥の会などが、生活を奪うな、ハゼの釣れる海を埋めるな、野鳥のすみかを埋めるなと声をあげた。9割ほど進んだ東京湾の埋め立てにブレーキがかかった。そして当時の革新都政はこれらの声を尊重し「生き物豊かな公園」を目指して、都と江戸川区による葛西沖再開発事業が進んだのである(「今よみがえる葛西沖」東京都建設局発行より)。
奥が鳥類園、水族館などがある葛西臨海公園、手前が海浜公園で、左側の「西なぎさ」は橋で渡れるが、右側の「東なぎさ」には一般の人の立ち入りはできない
東なぎさの干潟
■カヌー競技場問題への対応
2016年のオリンピック招致では、東京はリオデジャネイロに負けたが、カヌー競技場の建設計画を知った2009年から反対する活動が始まった。ここは東京都自身が生き物の聖地として作った公園であり、その1/3もの緑豊かな公園をつぶして競技場を作るのはオリンピックの理念に反すると抗議し、多くの生き物調査資料を添えてマスコミにアピールして、人々の共感を得ることができた。
この取り組みがあったことで、2020年の東京開催が決定した時からいち早くマスコミは葛西に注目し、その結果、私たちの要望通りカヌー競技場は公園の外に変更となった。ここが生き物の聖地として「作られた歴史にも触れて見直しを決めた」といった知事の発言は、ここの環境を守る私たちにとって大きな成果といえよう。
■ラムサール条約登録への動き
葛西三枚洲は、東京湾岸にわずかに残された貴重な自然の干潟と浅海域である。数万羽のスズガモ、数千羽のカンムリカイツブリの越冬地であり、シギ・チドリ類の飛来数も多い。国内でも最大級の水鳥の生息地であり、国際的に重要な湿地の保全を進めるラムサール条約への登録基準を満たしている。
この登録を進めようと、キックオフのシンポジウムを昨年6月19日に鳥類園レクチャールームで開催した(128名参加)。12月18日には都民向けの大シンポジウムを法政大学大教室に200人の参加者を得て開催した。マスコミ4社の取材があり、1月5日放映のNHK「ひるまえ」での取り上げを始め、2月18日に読売新聞夕刊掲載、4月13日に東京新聞・週刊新潮掲載と注目された。
このような動きを反映して、2月24日に江戸川区議会で区長が「ラムサール登録を進める」と答弁、同じころ開催された漁協説明会では「野鳥の会がやろうとしていることは理解できる」と話が進み、3月15日には都議会で小池知事が「ラムサール登録を推進する」と発言するまで進展した。
あとは環境省が現在の三枚洲を「東京都の鳥獣保護区」から「国指定の鳥獣保護区」へと変更する手続きを進め、公聴会を開いて同意を得て、ラムサール条約事務局に登録を申請するという段階に来ている。
来年10月にドバイで行われるCOP 13に間に合うよう、何としても押し上げたい...。ご注目を!!
雲のように舞うスズガモの群れ
保全活動に取り組む人たち
(ラムネットJニュースレターVol.28より転載)
2017年08月25日掲載