アジア湿地シンポジウム参加報告:失われた諫早湾干潟の重要性を問い直す
有明海漁民・市民ネットワーク(漁民ネット)/ラムネットJ理事 菅波 完
11月7日から10日まで、第8回アジア湿地シンポジウム(AWS)が佐賀市で開催されました。
私たちは、今回のAWSにおいて、政府および立地自治体などが、条約湿地に登録された3つの干潟(荒尾、東よか、肥前鹿島)の重要性をアピールする一方で、本来、有明海の干潟保全において、最も重要な論点であるはずの諫早湾の問題が無視されてしまうことを懸念して、漁民ネットおよびラムネットJのメンバーにより、諫早湾干拓の問題性と「開門」の必要性を訴えるアクションを行いました。具体的には、AWSでの口頭発表(11/8、菅波)、サイドイベント(11/8、ラムネットJとバードライフインターナショナルなどの共催)、AWS公式エクスカーションの諫早湾干拓視察へのアピール活動(11/9)、漁民ネット独自のシンポジウム開催(11/9)などです。さらに、AWSへの海外からの参加者に諫早湾干拓問題を理解してもらうため、英語の論文をまとめた「有明海の環境と漁業」の特別号をAWSにあわせて発行しました。
「有明海セッション」の会場(11月7日)
諫早湾干拓を視察するAWS参加者(11月9日)
実際のAWSが始まってみると、初日の基調報告や「有明海セッション」で、諫早湾干拓による漁業被害が"議論されている"といったことは紹介されましたが、諫早湾干拓の問題で推進・反対の対立が生じてしまっていることなどから目を背けるような姿勢で、「課題ばかりではなく、多様な生物が生息する(いまある)干潟の素晴らしさを広めていこう」という姿勢でした。
これは私たちにとっては、まったく納得のいかないものです。諫早湾干拓による有明海へのダメージは、直接的な干潟・浅海域の消失だけで3500ha以上、さらに諫早湾から有明海奥部の広範囲にわたって漁業被害が及んでいます。3カ所のラムサール湿地はもちろん重要ですが、そもそもラムサール条約は、締約国に、(登録湿地だけでなく)すべての干潟・湿地について、保全と賢明な利用を実践することを求めています。
「有明海の環境と漁業」第4号の表紙
AWSの最終日には「佐賀宣言」が決議されました。「佐賀宣言」については、事前の情報がほとんどありませんでしたが、私たちは、AWSで決議するべきことは、人為的な開発によって、山から川、海へつながる水の流れを断ち切ってきたことへの反省であり、諫早の「開門」のように、水の流れを回復させることの重要性だと考え、ラムネットJ、韓国湿地NGOネットワーク、世界湿地ネットワークとの連名による「提言」としてまとめ、AWSの主催者に送付していました。残念ながら、最終日に提案された「佐賀宣言」案は、極めて不十分なもので、私たちは、文案をめぐる全体討論の中で、諫早湾干拓による漁業被害が現在進行形であることを深刻に受け止め、「水の流れを回復させる」ことの必要性を明記するように求めましたが、議論の時間も限られており、結局、中途半端なまま、「佐賀宣言」が採択されてしまいました。
今回AWSに対して、できるかぎりのアクションを準備しましたが、十分な成果を上げることはできませんでした。この経験をバネに、引き続き、ラムサール条約などの国際的な枠組みの中でも、草の根のNGOの立場からの問題提起を続けていきたいと思います。
(ラムネットJニュースレターVol.30より転載)
2018年03月02日掲載