いまこそ「開門」の声を大きく

よみがえれ!有明訴訟弁護団/ラムネットJ共同代表 堀 良一

 開門しないことを前提に、開門に代わる基金等の方策による全体的解決を図る──3月5日、福岡高裁は和解協議の方向性をこのように示した。
 わたしたちは直ちにこの和解勧告を拒否し、裁判所がこの方向性に固執するのなら和解協議には応じられないと回答した。
調整池

諫早湾の潮受け堤防とその内側の調整池。カモ類などの野鳥が多数生息している(2017年11月)

 「和解」がその名に値するためには、それぞれの利害状況に配慮し、互譲の精神でテーブルに着くことが大切である。わたしたちは、和解の精神を尊重する立場から次のような和解案を提案した。すなわち、干拓地農業者らの開門に伴う不安を考慮し、彼らが納得できるような事前準備工事を行う間は開門請求を差し控え、しかも開門にともなう予想外の被害があるかもしれないという不安に対してはその補償のための農業基金を設立する。開門方法についても配慮して、短期開門調査レベルの最小限の開門を実現して開門調査を行い、開門効果を見極めながら徐々に開門レベルを引き揚げるという和解案である。
 福岡高裁の和解勧告は、互譲の精神どころか、漁民が持っている確定判決上の開門請求権を一方的に放棄することを前提として和解協議を進めるというもので、枠組みそのものが偏頗(へんぱ)で不公平である。また、確定判決で認められた開門請求権を一方的に放棄することを前提にすること自体、司法による司法の軽視である。しかもこの間、干拓事業を行った国は、なんとかして確定判決に基づく開門請求権を葬り去ろうと、開門阻止訴訟において、なれ合い訴訟を展開し、開門禁止判決が出るとさっさと控訴権を放棄して開門禁止判決を確定させようとするなど、国の面子を最優先させて、なりふり構わぬ対応をした。さらに、有明海沿岸の漁業団体に圧力をかけて自由であるべき彼らの議論に介入した。自らが当事者となった紛争を有利に進めるため、許認可や補助金の権限を持った国の官僚組織が、逆らうと不利益があるかもしれないと恐れる民間団体の議論に介入することは、民主主義の否定である。今回の和解勧告は、このような理不尽な国の対応を追認するものである。
 国が開門に代わる有明海再生事業に力を注ぐと発表した2004年5月から、すでに14年が経過しようとしている。この間費やされた公金は500億円を超えた。調整池の水質対策には別に500億円近くが投入されている。それでもなお、調整池の水質改善も有明海再生も展望が見えてこない。年々累積する漁業被害のなかで、開門は残された最後の手段である。
 わたしたちは、以上のことを踏まえ、福岡高裁の和解勧告を拒否した。

カモ類による食害を受けた諫早湾干拓農地のダイコン畑
カモ類による食害を受けた諫早湾干拓農地のダイコン畑
衆議院議員会館での集会で、干拓農地の問題について訴える営農者の松尾公春さん(中央)
衆議院議員会館での集会で、干拓農地の問題について訴える営農者の松尾公春さん(中央)

 最近では、干拓地農業者の中からも開門の声が上がっている。干拓地農業は2008年4月の開始以来、10年が経過した。当初、41経営体が入植したが、この間、9経営体が撤退している。広大な調整池は食害をもたらすカモ類を大量に呼び寄せ、よどんだ浅い淡水の水温は冬場には周辺海域より5度近く冷たく、夏場には逆に高温になる。それが作物への冷害や熱害をもたらしている。農業用水にするはずの調整池の水は十分に使えず、しかも、劣悪である。干拓農地の土壌は乾燥すると固まり、雨が降るとドロドロにぬかるみ、広い干拓農地を耕作するために高い資金を投入して購入した農業用機器が機能しない。不等沈下のため暗渠(あんきょ)排水が破壊され、水はけは悪化し続けている。その中で、経営に苦労する干拓地農業者に対し、高額のリース料支払いの締め付けはますます強くなっている。このような中で、2つの干拓地農業団体が損害賠償と開門を求めて訴訟に立ち上がった。彼らは漁業者との連携を求めており、すでに、共に開門を求めていこうという合意ができている。
 漁業も農業も破壊する干拓事業に対して、文字通り、農漁共存の立場からの開門の新たな運動が始まろうとしているのである。
 国や裁判所の理不尽な動きに、全国のみなさんが抗議の声を上げ、開門の運動を支援していただくよう、心からお願いしたい。

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2018年3月に開催された第42回有明海・八代海等総合調査評価委員会。昨年公表した委員会報告では有明海の環境異変の原因を明確にしなかったが、委員の一人である佐賀大の速水祐一准教授は最近発表した論文で、有明海奥部海域の貧酸素化は諫早湾干拓による影響であるとの見解を明らかにした。

ラムネットJニュースレターVol.31より転載)

2018年05月04日掲載