湿地巡り:中池見湿地(福井県)

中池見ねっと事務局長/ラムネットJ理事 上野山雅子

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 中池見湿地は福井県敦賀市にある広さ25haほどの湿地です。周囲を天筒山、深山、中山の三つの低山に囲まれ、市街地のすぐそばにありながら静かな時間が流れ、訪れた人々を四季折々に豊かな風景で迎えてくれます。
 中池見湿地の特徴の一つはその器たる地形・地質のユニークな成り立ちです。10万年前、断層運動により谷水の流れがせき止められて湿地となり、その後も堆積、浸食、断層運動が繰り返されることで湿地が維持されました。その間堆積した泥炭層は40mにもおよび、気候変動を知る上で学術的価値の高いものです。
 そして生物多様性の高さも大きな特徴です。中池見湿地の水辺は湧水、小川、水路、大小の池などさまざまです。またその水は周囲の山々から供給されているため、山の地質の違いや人が水田として利用することで変化し多様な水環境を生みました。このことが氷河期の遺存種のミツガシワを残し、一方、江戸時代から続いた水田にデンジソウやミズアオイなどの水田雑草を育みました。なお、かつて全域にあった田んぼの多くは近年放棄されヨシ原に遷移しましたが、世界的に絶滅が危惧されているノジコの渡りの主要な中継地となっています。

天筒山から見た中池見湿地
天筒山から見た中池見湿地
ミツガシワ
ミツガシワ

 2012年、特異的な地形や地質に加えその生物多様性の高さなどから、中池見湿地はラムサール条約湿地に登録されました。
 現在、中池見湿地は保全活用計画に基づき中池見湿地保全活用協議会が設置され、持続可能な保全に向けて少しずつ取り組みを始めています。しかしマンパワー不足、高齢化は待ったなしの課題にもかかわらず、中池見湿地への関心はいまだ低く保全・活用への機運は限定的です。さらに30年前に不用意に行った田んぼの客土が沈下して池となり、今も拡がり続けてこれ以上放置することはできない状況です。一方、今秋から始まる北陸新幹線深山トンネル工事の影響も大変気になるところです。
 今後、より多様な人々との連携・協働を進めながら、未来の人たちに地域の誇りであり資源である中池見湿地を守り手渡していける仕組みづくりが急がれます。

ラムネットJニュースレターVol.32より転載)

2018年08月27日掲載