ラムネットJが発議したIUCN-WCC決議「湿地保全のために水の自然な流れを守る」について
ラムネットJ共同代表 永井光弘・同理事 柏木 実
2021年にマルセイユで開催される世界自然保護会議のロゴマーク
IUCN(世界自然保護連合)は今後4年間の自然保護活動のため、2020年10月、表記の「水の自然な流れ」を含む109の決議を採択しました。IUCNでは、本年9月開催の4年に1度の行事である世界自然保護会議(WCC)の中で行われる会員総会で決定されるこれらの決議と行動計画に基づいて自然保護活動が進められます。
IUCNは現在(2021年3月)世界170か国にわたる1456の団体会員で構成されています(自然保護団体1066、先住民族団体23、国家会員91、政府機関120)。NGOと国家・政府機関が対等な会員として運営されるユニークな自然保護組織で、ラムサール条約を提案した4つの国際NGOの一つです。日本からのNGO会員はラムネットJを含め15団体です。
決議17「湿地保全のために水の自然な流れを守る」は、ラムネットJが発議、国内団体のほか世界水鳥湿地トラストなどの他の会員と共同提案し、3回にわたる公開の電子レビュー、国家会員を含む全会員による電子投票を経て採択された決議です。
ラムネットJは湿地保全の重要な課題として国内の干潟の埋め立てなどの問題に取り組み、また同様な課題を持つ韓国の湿地保全団体の組織である韓国湿地NGOネットワーク(KWNN)とも協力してきました。「水の自然な流れ」決議の考えは、これまでのKWNNとの共同作業の中から生まれました。
ダム、導水路、河口堰、複式干拓、そして巨大防潮堤によって、日本、韓国だけでなく世界中で湿地が急速に減少しています。国によって、また設置される場所や技術によって自然や地元への影響はさまざまです。しかし湿地保全が問題となる場所にはいつも水管理インフラの構造物があります。この構造物が水の自然な流れを妨げることで、生物多様性と人々の生活を大きく破壊してきたことに対して、これらの構造物を造らず、時には撤去し、地下水脈を含む水の自然な流れを守り、地域の人々の生活を守る活動にIUCNとして取り組むのがこの決議です。
決議本文は、IUCN各組織に対して、①湿地の劣化と水の自然な流れを遮る人工構造物の現状調査、②水の自然な流れに関する対話・教育・普及啓発活動(CEPA)の推進、③予防原則に基づいて水の自然な流れの保全・再生を行う法制度の検討などを求め、また世界の各国に対しては、湿地の復元のため既にある水の流れを遮る人工構造物の撤去等を含む調査を要請しています。さらに今後、このような構造物を作る事業では、必要性と妥当性を地域住民・科学者を含む公平な第三者機関で検討する仕組みを作るよう求めています。
ラムネットJはこの決議を活用して、まず昨年12月に「熊本県知事に対して川辺川ダム容認の撤回を求める声明」を発表しました。「水の自然な流れ」を守ることが人々の生活と生物の多様性にとって大切であることを確認したこのIUCN決議17について、多くの方々に知っていただき、さまざまな局面で広く活用し実践することで湿地の保全・再生を進めていきましょう。
*この決議の全文は以下のウェブサイトにあります。
[英語]https://www.iucncongress2020.org/motion/019
[日本語]https://www.ramnet-j.org/file/wcc_2020_res_017_jp.pdf
[英語]https://www.iucncongress2020.org/motion/019
[日本語]https://www.ramnet-j.org/file/wcc_2020_res_017_jp.pdf
(ラムネットJニュースレターVol.43より転載)
2021年05月22日掲載