湿地巡り:久米島の渓流・湿地(沖縄県)
久米島町観光協会事務局長 上原一晃
沖縄県・那覇市から西へ100km。紺碧の海の上に久米島はあります。古くより大陸との交易の要衝として、琉球王朝における進貢船の寄港地として重要な島とされていました。一方、自然環境に目を向けると、黒潮が近くにあることから、海の生物の多様性も豊かであり、新種の甲殻類が数多く発見されたり、冬季には、ザトウクジラが回遊してきて近海で子育てを行っていたりします。他方、陸域では太古の昔火山島でもあったことから、沖縄の離島では珍しく湧き水(弱酸性の軟水)も豊富で、島固有のクメノサクラを始め季節を通して多種にわたる植物が繁茂しています。
豊かな水が豊かな山林を育み、その源泉となる渓流域には「種の保存法」により国内希少野生動植物種として登録されているキクザトサワヘビが生息しています。このように、久米島の渓流は国際的も重要な湿地であると認められ、2008年10月に「久米島の渓流・湿地」としてラムサール条約湿地に登録されました。登録面積は255haで、島全体の約4.3%を占めています。対象地域には湖畔林が発達していて、住民からは「ニブチの森」として親しまれており、観光客をターゲットとしたガイドツアーも人気を博しています。
久米島のアイコン「ハテの浜」
ラムサール条約登録地域からの伏流水が流れ込んでいる池
久米島は名前に「米」が込められている通り、良質な水に恵まれている背景から戦後まで稲作が盛んでした。現在はサトウキビ畑が島の多くを占めていますが、島内の風景には過去に棚田であった面影が色濃く残っています。近年、棚田の復活を目指す動きがあり、有志による稲作も試行しております。
条約の3本柱である「保全」「交流」「ワイズユース」ですが、久米島の動植物(キクザトサワヘビだけでなく、固有種であるクメジマボタルや絶滅危惧Ⅱ類のリュウキュウヤマガメなど)は、人類にとっても貴重な存在であり保全活動も盛んです。さらには、「ハテの浜」「畳石」など観光資源も特徴的で交流人口も多く、訪れた方が久米島の自然の豊かさに感動して虜になってもいます。このように条約の理念に合致する久米島から、今後新たな「ワイズユース」を展開していきたいと考えております。
(ラムネットJニュースレターVol.45より転載)
2021年12月12日掲載