湿地巡り:宮舞町湿原(北海道)
宮舞町湿原を大切に思う会 金澤裕司
別海(べっかい)町は北海道の東に位置する低い丘陵と湿地が入り交じる根釧(こんせん)原野の町です。ここは浅海に火山噴出物が堆積して形成されたと言われ傾斜はほとんどありません。
夏、小笠原付近の高気圧から吹き出す高温多湿の風が釧路沖の寒流上で急冷され霧が生じます。霧は内陸深くまで流入し、夏の根釧原野は日が射さず寒い日が続きます。高低差が小さく透水性の低い土壌は乾くことなく湿原が発達します。
別海町はほぼ全町域に牧草地が広がりその間にいくつかの小集落が散在しています。ですから原生的な環境はほとんどありません。辛うじて小さな湿地が点在しています。これらは「開拓」前の本来の自然の姿をとどめた天然の標本箱です。今回、希少種のムセンスゲが見つかったのもそのような湿原です。
上空から見た宮舞町湿原
写真提供:トラストサルン釧路 泉知明氏
希少種のムセンスゲ
ムセンスゲは、カヤツリグサ科のスゲで環境省レッドリストの絶滅危惧Ⅱ類です。道内では猿払(さるふつ)、大雪山、知床半島羅臼(らうす)湖周辺、根室市と4か所の生息地が知られていました。別海町は5番目の生息地で、道東では最大規模だそうです。飛び地状の分布をしている理由は本種が氷河期の遺存種だからでしょう。
ムセンスゲは2021年7月に湿原を調べた札幌の植物研究家が発見し、釧路市博物館学芸員の加藤ゆき恵氏が同定しました。
これを受け8月には住民による見学会が開催され、その時「宮舞町湿原を大切に思う会」が発足しました。また、10月に文化財保護審議会が湿原を町の文化財にすべきとの決議を行いました。「思う会」は加藤氏による一般向け学習会を計画、50名を超える人が参加しました。一方、保全のために町による土地取得を求める町長宛ての嘆願書の提出にも取り組み、町内外から579名の賛同を得て10月末に提出されました。町長も保全の意義を理解して保全の方策を探るという意志を示しています。
「大切に思う会」では引き続き情報発信、会員の学び合いで湿原とその生態系への理解を広めていくことにしています。
(ラムネットJニュースレターVol.46より転載)
2022年02月04日掲載