日本最南端のラムサール条約湿地 石垣島の名蔵アンパルを未来へつなごう!
アンパルの自然を守る会共同代表 島村賢正
石垣島が誇る日本最南端のラムサール条約湿地=名蔵(なぐら)アンパルに重大な危機が迫っています。
石垣島の西部に位置する名蔵アンパルは、於茂登(おもと)連山~バンナ岳~前勢(まえせ)岳を水源域として、沈水カルストで注目されている名蔵湾から長大な砂嘴によって仕切られた広大な汽水性湿地です。そこには干潟・マングローブ林・塩性草地などの多様な湿地環境が広がり、多くの水生生物や鳥類などに、かけがえのない生息空間を提供しており、国指定の鳥獣保護区に指定され、2007年には「西表石垣国立公園」に編入されました。
汽水域であるアンパルには、満潮時に多くの外海の魚類が採餌や繁殖のために入って来ますが、ヤエヤマヒルギやオヒルギなどが優占するマングローブ林では、複雑に絡み合った支柱根や呼吸根が静穏な水環境を作って稚魚や稚ガニ、稚貝の成長を助け、「海のゆりかご」とも呼ばれ、多くの底生動物や魚類の生息を支えています。
一方、砂泥質の干潟にはコメツキガニやシオマネキ類など多様なカニ類が生息し、琉球列島を代表するカニ類の宝庫となっています。さらにカニ類をはじめとする豊富な小動物群は、シギ・チドリ類やサギ類など多くの鳥類の餌となって豊かな鳥類相を支え、国内では八重山諸島にのみ生息する国指定特別天然記念物のカンムリワシやクロツラヘラサギ・ブロンズトキなどの希少種も貴重な餌場としてアンパルを利用しています。
バンナ岳からアンパル、名蔵湾、屋良部半島を望む
名蔵大橋上空から前勢岳(中央右)を望む。手前はアンパル湿地、右は名蔵湾
このように、アンパル湿地は文字通り石垣島の「島人の宝」と呼ぶべき存在ですが、この宝に致命的な危機をもたらす無謀な大規模開発事業計画が湿地南部の重要な水源域の前勢岳北斜面で進行しています。この大規模開発事業は、前勢岳北斜面の約6割にも及ぶ127haもの広大な土地に、18ホールのゴルフ場の他、最高40mにも達する中高層ホテル6棟や何棟ものプール付ヴィラなど、多くのレジャー施設を建設するものです。事業主体は(株)ユニマットプレシャスという民間企業ですが、石垣市の行政当局は市民には告知することなく、裏ワザ的な行政手法を駆使して、農地法等による法規制を緩和させようと画策するなど、全面的にバックアップしてきました。
いうまでもなく、この開発事業は自然を大規模に破壊し、SDGsを完全に否定する時代錯誤のシロモノであり、計画発表当初から赤土汚染・地下水の枯渇や汚染・夜間照明による光害(ホタルなどの動植物や農作物、石垣島天文台への影響)など、極めて多岐にわたる深刻な問題点が指摘されてきました。とりわけ膨大な地下水の汲み上げは、アンパルのみならず名蔵湾の生物多様性に富む豊かな生態系を徐々に変化させ、長期的には致命的な影響を与える可能性は否定できません。さらに、事業者の杜撰な環境影響評価に対しては、多くの厳しい「県知事意見」が提示され、事業者の環境保全に対する不誠実な対応が浮き彫りになっています。
早期着工の動きが伝えられたため、本会は昨年9月から「我がーやいまの自然環境を考える会」とともに、開発事業反対の緊急署名を地元や県内外の皆さんに呼びかけ、年末までに書面とオンラインを合わせて約1万3000名の署名を集めました。
リュウキュウコメツキガニ
子どもアンパル観察会
島では「あんぱるぬみだがーまゆんた」という民謡が歌い継がれています。この謡はアンパルに生息するカニを擬人化した「ゆんた(労働歌)」です。主人公の「みだがーま(目高蟹)」の生年祝いに、15種類ものカニたちが宴会の各係を担う様子が見事に謡われています。このように、名蔵アンパルは古くから島の人々に潮干狩りや行楽地として親しまれてきた憩いの場・心の拠り所であり、このアンパルの良好な環境を守り未来へつなぐことは、石垣島の伝承文化を守り育てることでもあります。
本会は2009年の結成以来、児童生徒や市民に対する観察会や講演会、展示会の実施、清掃活動などを通じてアンパルや石垣島の自然の大切さを広報してきました。
石垣島を愛する全世界の皆さん、石垣島の自然を永遠に守り抜くために、大規模開発事業反対の緊急署名と友人・知人への呼びかけをお願い致します。
オンライン署名のQRコード
(ラムネットJニュースレターVol.46より転載)
2022年02月04日掲載