エフゲニー・シロエチコフスキーさんを悼む

ラムネットJ理事 柏木 実/呉地正行

エフゲニー・シロエチコフスキー

2015年1月ウトナイ湖で。EAAFP会議を前に

 東アジア・オーストラリア地域フライウェイパートナーシップのロシア政府代表、ヘラシギ特別委員会議長のエフゲニー・シロエチコフスキー博士がCOVID−19に感染、療養の間に癌のため1月25日、53歳の若さで亡くなりました。モスクワ大学地理学部で学び、1990年代半ばから父上を引き継ぎ、ロシア北極圏の鳥類踏査を率いてこられました。国際的にはロシアの鳥類専門家として、また政府代表として二国間渡り鳥会議、北極評議会の作業部会議長など重責を果たしてこられました。何度も来日、各地でガン類やヘラシギなどについて講演会や小集会の講師もされました。大きな体と優しい眼をご存知の方も多いと思います。
 エフゲニーは今世紀に入ってロシア東端チュコト半島でガン類とヘラシギに焦点を当てた踏査を企画しました。支援の少ない中、彼は日本の呉地、柏木に声をかけてきました。日本雁を保護する会の呉地は2001年に、宮城県に渡ってくるマガンの繁殖地の調査の資金を提供しました。この年の調査はこの資金が原資となって実施され、主な繁殖地がチュコト南部地域にあることが確認されました。柏木は、誰もが減少を感じながら具体的なデータがないヘラシギのデータはぜひ必要だと考え、2002年から経団連自然保護助成基金から助成を受け、ヘラシギ調査の初期の資金源となりました。
 研究さえできれば良いと、水鳥減少の主因に日本・韓国・中国での開発の影響を挙げることを渋る研究者が多くいます。エフゲニーもそのような人かとも当初思いました。しかし柏木が2002〜3年に実際にチュコト調査に参加し、またさまざまな保全活動を共にする中で、鳥たちへのエフゲニーの愛を感じ取りました。彼は、チュコトの子どもたちにパチンコで鳥を撃ってはいけないと話し、鳥たちを守る方法の絵を描かせる啓発活動を行ってきました。またチュコト政府へも働きかけてヘラシギ保護区実現に漕ぎつけるなど、真剣に保護活動を行ってきました。このような研究者と一緒に活動できたことは本当に幸せだったと思います。
 エフゲニーと遺された家族、ロシアとウクライナ、そして世界の平和を切に望みます。

ラムネットJニュースレターVol.47より転載)

2022年05月01日掲載